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本日(01/04/03)の産経記事にて、 戦艦陸奥の装甲が原子力開発において欠くべからざる素材として珍重されていると知りました。 意外な第二の人生に驚きましたが、より詳しい情報が得られればとここに質問させていただきます。 また、このような「戦前の鉄」が利用されるような事例は他にありますか? 勝井 |
まず、「陸奥鉄」の用途ですが、ごく微量の放射性物質を測定するときに不可欠な材料として珍重されてます。これは戦前に製鉄されているという理由によるものです。
というのは、戦後に製鉄された鉄には微量の放射性物質が混入しているからです。これは高炉(耐火レンガ)に仕込まれた放射性物質(Co-60)が耐火レンガの磨耗に伴って製品(鉄)に混入してしまうことによります。高炉にCo-60を仕込んでいる理由は、Co-60の放射能を測定することにより容易に高炉の磨耗状態を把握できるからであると聞いています。
さて、ごく微量の放射性物質を測定する場合には、自然放射線の影響を排除することが必要になります。このため測定室は宇宙線や土壌からの放射線を可能な限り遮へいした構造にする必要があります。この遮へい材料には鉄を使うのですが、肝心のこの鉄に放射性物質が混入していたのでは困ります。
そこで陸奥鉄の出番です。戦前の鉄は高炉にCo-60など入っていないので放射性物質の混入はありません。別に戦前の鉄であれば何も軍艦に限る必要はないのですが、ある程度まとまった量を確保するためには都合がよかったのでしょう。残念ながら何故陸奥であって他の艦でなかったのかは知りません。
最新の高炉にはCo-60は入っていないとは聞いていますが、残念ながらCo-60を入れなくなった時期は知りません。どなたか鉄鋼事情に詳しい方に教えていただければうれしいです。
TETSU29
東京タワーには、スクラップにされた戦車の鉄が使われてると聞いたことがあります。ただ、この話は、最近まで秘密にされてたそうです。東京のシンボルである東京タワーに、戦車の鉄が使われてるとなると、イメージがダウンするからだとか。
この話は、朝日新聞の記事で読みました。戦後の復興を支えた人を特集した記事で、解体屋さんの話があったんです。戦車の解体を任されるのは、解体屋として一流の証明なんだそうです。それほど戦車は頑丈なんですね。
でも、この解体屋さん本人も、自分が解体した戦車の鉄が、東京タワーに使われてるだなんて、最近まで知らなかったとか。
ツカドン
記事の要所を記述しますと、
放射線量測定には、外部の放射線遮断の必要があるため、
材料には古い鉄材の使用が望ましく、厚さも20センチは必要であり、
45年に引き上げられた陸奥において、主砲などがそのままの状態で残っていたため、それを生かすことにしたそうです。
当時の価格で2千万円という高額で取引され、砲塔を現地で切って、必要な部分を運んだとか。
製作された筒形測定器は全国の原発に納入、いずれも現役で活動中。
第一号機は東海村臨界事故ではフル稼働したんだって。
勝井
要するに戦艦の装甲ですから分厚いため、
このような用途に適してたということらしいです。
勝井
1945年7月16日に、ニューメキシコ州アラモゴードで初のプルトニウムを使った原子爆弾実験が行われて以来、世界中に鉄の放射性同位元素がまきちらされてしまったため、その後で精錬した鉄はかならず放射能をもってしまいました。このため、精密な放射線をあつかう装置には、現代の放射能をもつ鉄はつかえません。そのため、大西洋にたくさん沈んでいるUボートなども、そのラジエーション・フリーの鋼鉄が、陸奥の鉄と同じように珍重されております:
http://www.divernet.com/travel/skye1299.htm
http://atschool.eduweb.co.uk/jralston/rk/scapa/backgrnd.html
少年タイフーン
http://www.scc.kyushu-u.ac.jp/labo/japanese/rad8j/rad8j.html
アリエフ
アリエフ
絵塗師
Feの同位体は極一部を除いて半減期が短いですし、Co-60は核分裂ではまず生成しません。
>6.Fall-outは人工放射性物質の一部です。環境試料の分析などではFall-outはその放射性物質の組成を調べることで判別してます。単純に人工の同位体と天然の同位体を見分けてるわけではありません。
>7.惜しい!原発内部で生成する放射能で一番問題になるのは冷却水中に溶け出した構造材(溶けるといっても本当に極表面だけです)が中性子を吸収して生成するCo-60なんです。ですからCo-60が入っていない鉄が必要になるということです。
あと、UでもPuでも核分裂して生成する同位体の種類はほとんど変わりません。量は変わりますけど。
話が逸れるのを承知で書き加えますと、「核分裂で生成する同位体」と「中性子を吸収して生成する同位体」というのはほとんど一致しません。つまり、「核分裂でも中性子の吸収でも生成する同位体」というのは種類が限られてるんです。
TETSU29
じょーぢ
アリエフ
National Geography誌(←綴り絶対間違ってると思う)に以前そういった記事が載ってましたので・・・
一応、お題の趣旨「戦前の鉄の利用例」には対応してると思ったので投稿しましたが、お気に障ったようなら、申し訳ございませんと謝っておきます。
これは、完全に憶測ですが、やっぱり地上ではなく海中にあったというのが、なにかのポイントになってるんじゃないでしょうか?
じょーぢ
そこなんだよな、なぜ戦前製のビルや橋の分厚い鉄骨ではいかんのか?原子炉に使われている鋼鉄と艦船の鋼鉄とが似ているからかな?
アリエフ
1)なぜ、地上に放置された戦前の鉄を利用しないのか?
これに対しては、はっきりとした理由はわかりませんが、今までは鉄は、とてもうまくリサイクルされており、日本の生産量年間約1億トンのほぼ3割は、鉄スクラップからのリサイクルだそうです。ですから、戦後56年をへて、まだ簡単に入手できそうな、地上に放置されている戦前製の鉄などは、今やほとんど残っていないのではないかと考えております:
http://www.daisikyo.or.jp/iron/iron.htm
また、現在、蓄積されている11億トン以上の鉄鋼のなかでも、はっきりと「プレ広島」が確認できる鉄は、もはやほとんどないものと想像されます:
http://www.jisri.or.jp/resycle/frame.html
2)なぜ地上の鉄でなく海中の鉄なのか?
これは、極く微量な放射能の問題になるかと存じますが、もしも、フォール・アウトの影響が無視できないとすると、少しでも地上で放射能の影響を受けた鉄よりも、海中深くに隔離されてフォール・アウトをやりすごすことができた鉄の方が、鉄および鉄製品に含まれる各種放射性同位元素が、より少ないのではないだろうかと、納得することができます。どっちみち鉄製品からのラディエーションを、完全にゼロにするわけでにはいかないはずですが、極く微量な定量的な問題になりますと、大気圏内の核爆発の際に海中に隔離されていた鉄の方が、その際に地上でフォール・アウトに暴露した鉄よりも、より放射能汚染が少ないだろうということは、充分に納得できると存じます。
3)ラディエーション・フリーの鉄の有用性について
これも、定量的な比較の問題になると存じますが、人体内の放射性物質(γ線放出核種)を測定するための装置などの、放射線を遮蔽を施された部屋(鉄室)の素材には、できるだけラディエーション・フリーの鉄を使用すべきであることは、あたりまえだと存じております:
http://www.rcnst.u-tokyo.ac.jp/radiation/hc.html
4)「プレ広島」の鉄の入手法について
日本では、かなり昔(戦前?)から、鉄のリサイクルの流通ルートは、すでにちゃんと確立されていたようですので、明確に「プレ広島」とあきらかな鉄を入手するためには、海中深くに放置されていた戦前からの廃船の鉄が、もっとも素性がはっきりしていると素材かと存じます。ドイツが降伏した際(もちろんプレ広島)に、たくさんの残っていたUボートが、どこかの海域に大量に海中投棄されたそうですので、それらのUボートの鋼鉄が、「プレ広島」の鉄の有力な候補として、多方面から狙われていると聞いたことがあります。ともかく、地上でも海中でも、単に経済原則にのっとった定量的な問題ですので、もはやほとんど残っていない地上に放置された「プレ広島」の鉄を求めるの方がが得なのか、まだ手つかずでたくさんのこっているはずの、アクセスが困難な海中に投棄されたUボートなどの鉄を求める方が得なのかは、どちらが採算があうかの、単なる経済的な問題だと考えております。
こんなカキコで、ご納得いただけますでしょうか。これ以上の専門的な事項については、ぜひ、本職のご専門家からの詳しいポストを期待いたしております。
少年タイフーン