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ちょっとタイ旅行で船に乗る機会があったのですが、その際に双眼鏡で遠方を眺めている時に、ハタと疑問が湧き上がりました。 大砲を打つ場合に色々な装置で目標を捕らえて計算して仰角を取ると思うのですが、肝心の船自体が左右に動揺してますので、特に大口径(長距離)の砲ほど影響が大きそうなのですが。 実際の話としてどうやって撃ったのでしょう。例えば予め船がここまで揺れた時点で射撃盤から信号が出るとか、戦車みたいに船の動揺を打ち消すように砲身がブラブラ上下していたとか(追尾が難しそう)、そんなこと気にせずにバンバン撃つとか(なさそう)... 基本的な事かもしれませんが、よろしくお願いします。 bluefish |
ただ、一旦照準を行い、砲を指向する指示を出すと、自動追尾で微調整が行われます。つまり照準を合わせて砲身を指向した後、射撃までの間、わずかながら砲塔は旋回してるってことです。この範疇で、砲身も微小ながら上下してるわけで、その意味では正解は「戦車みたく」ということになりましょうか。
しかし当然荒天下で動揺を吸収しきれない場合もあるわけで、このようなときは、「予め」が加わるのではないでしょうか(この辺推測モード)?このような場合には、個艦固有の動揺の「くせ」というやつが射撃パラメータの中でクローズアップされてくるでしょう。
勝井
実際に、砲の動揺に対するスタビライズは、人力で軽快に操作できる砲以外では、かなり後期(私の「後期」は20世紀です)になるまで実現していませんし、その意味もありません。目標は水平射撃で届く距離ですし、動揺周期より装填間隔のほうが長いので、一定の位置に来たときに撃てばいいだけです。
砲の指揮は各砲単位ですから、タイミングはそれぞれの砲長の好みでしょう。
仰角をかけて、放物線弾道で命中が期待できるようになるのは、20世紀に入ってからです。
ちなみに、速射砲の発射速度は、砲がスタビライズされていないと意味を為しません。
速射砲が猛威を振るった日清戦争「黄海海戦」では、「鏡のような黄海」という言葉に、その秘密が語られています。
日本海海戦では、「波高し」なので、「猛訓練」がものをいったわけです。なにせ人力で俯仰ハンドルを回して速射砲をスタビライズするのですから、もう熟練あるのみ。
20世紀以後については、ずっと詳しい方にお譲りします。
志郎
は、各砲での目標追従は手動です。
射撃盤に射撃緒元(自艦や敵艦の速度とか敵艦の方位、距離とか自艦
の動揺とか)を入力し各砲毎の旋回・附仰角度を算出し、それを各砲
塔に伝達します。砲塔内では旋回手と附仰手(各砲身毎)がおり、メ
ーターに表示される修正値の指針と実際の砲身の指針を合致させる様
にハンドルを動かします。で、指針が合致した段階で信号が射撃指揮
所に伝達されるのです。
実際にそれぞれの指針を合致させるのは、特に艦の動揺が激しい時で
は大変だったでしょうし、急激な操作は砲身の「ぶれ」を招き命中率
低下の一因であったとも言います。
訓練と熟練の賜ですが、殆ど達人の「技」的な世界ではあります。
takukou
アリエフ
アリエフ
仰角について言えば,射撃盤が計算する砲身の仰角は「船体に対して」ではなく「方位盤の照準線に対して」です。船体が揺れても方位盤射手が照準線を的艦に合わせ続けます(つまり照準線はほぼ水平を保つ)。
この照準線に対して,砲身は重力による後落を見越した仰角を取ります。もちろん的艦の進行による未来位置や,風向風速,方位盤と砲の高度差(潜差),前後差(苗頭)の影響も見越して仰角は計算されます。
よって砲身俯仰手のメーターに示される仰角は
1)船体に対する照準線の仰角
+ 2)照準線に対する(放物軌道,的艦移動,風の影響を見越した)仰角
+ 3)方位盤に対する砲塔位置の差を見越した修正角
です。
射手が動揺をキャンセルして正確に照準を合わせている限り,1)が常に変化してリアルタイムで俯仰手のメータ仰角が上下しますので,砲身仰角をそれに正確に追従させれば砲身も水平線に対して一定の角度を保ちます。
旋回角についても同様に方位盤旋回手の照準が的艦を捉え続ければ艦の動揺・変針に関わらず砲塔は一定の方向を向き続けます。ただし艦の旋回が方位盤や砲塔の旋回より速いと追従し切れませんが。
現用艦艇で有れば(調べたわけではありませんが)照準器自体がジャイロで自動安定化されて視野が動揺せず,射手は単に照準線を目標に合わせれば済むでしょう。それに連動する砲身も船体動揺の影響は受けないはずです。
またレーダーで照準する場合は的艦の位置へ砲弾を飛ばすための,砲身の「水平線に対する」仰角をジャイロ等を使って実時間計算して,船体の動揺の影響は受けないと思います。
→1.
揚げ足取りになって申し訳有りませんが,
>意外と動揺しないもんです。
動揺します。大戦艦であってもこの影響は大きく,艦の安定性は命中精度を大きく左右します。また現用艦艇はみな以前の重巡以下の大きさですから,荒天中では長年乗っている艦長ですら船酔いすることがあります。
>動揺を軽減するための処置はなされてます
フィンスタビライザーは主としてヘリコプターの着艦を助けるためで,オフにすることも多いはずです。何より動作原理が
「艦が傾く」→「ジャイロでそれを検知」→「スタビライザーを操作する」
ですから,多少なりとも傾かない限りそれを安定させる操作もできません。応答性も瞬時ではありませんので,動揺を「軽減」はしますが0にはできません。仰角が1度ずれても10000m先では200m弱の上下差(=その数倍の遠近差)になります。またフィンスタビライザーもビルジキールも横揺れは軽減できても縦揺れには無力です。
isi
ピッチング専門とローリング専門の二人がいて、それでもキャンセル仕切れない分をどうやってタイミングを計ってクリアするかが射手の技能だったとか。本当なんでしょうか?
imokenpi
私の知る限りでは動揺手は1人のはずで,理論上も2人いるとかえって不都合に思えますが。
照準線をX軸,それと直交する水平軸をY軸,垂直軸をZ軸とすると,各照準手は次の軸周りの調整を行うようです。
射 手: Y軸周り(照準視野内での上下操作),& 発射
旋回手: Z軸周り( 〃 左右操作)
動揺手: X軸周り( 〃 傾斜操作) ← 照準視野を水平(水平線と平行)に保つ操作
3次元空間では直交軸は3つしかありませんから,船体動揺の自由度も3つです。よって3人が3軸周りの修正を行えば,船がどのように動揺しても照準線を標的に固定できます(修正の3軸は,船体の前後・左右・上下軸と平行である必要はありません)。動揺手が2人(照準手が4人)いると1人余分になり,各照準手間の操作に重複が生じて不正確・非効率になりますので,動揺手は1人ではないでしょうか。(ただし4次元空間の戦艦なら照準手は4人必要になりますが)
ご指摘のように動揺手が方位盤をスタビライズさせることが目的なら,厳密にはローリング・ピッチング・ヨーイングの3人が必要なはずで,現用艦艇ならこの役目をスタビライザーがジャイロによって行っているのでしょう(動揺ではヨーの影響も無視できないようです)。
方位盤の操作員は照準手3人+砲術長1人の計4人で大和竣工時は以下の4人だそうです。
砲術長 松田 源吾 氏
方位盤射手 村田 元輝 氏
方位盤旋回手 家田 政六 氏
方位盤動揺手 竹重 忠治 氏
児島 襄「戦艦大和」では,射手の「引き金さばき」が命中の成否を分け,射手の村田氏は引き金さばきの修練を積んだと記述されていますが,私には原理が良く分かりません。(「引き金を引きっぱなしだと弾がドンドン出るだけでなく,照準に伴う修正操作を無視する結果となり弾はそっぽに行く」etc.)
一方ミュレンハイム・レッヒベルク「巨大戦艦ビスマルク」では発射はボタン操作で,操作も砲術長だったり射手だったりするらしく,ボタン操作の巧緻が精度に影響するとは見なしていないように思えます。
isi