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対戦後期の日本の航空エンジンは軒並み水メタ噴射を使っていますが、もし高オクタン燃料を入れた場合は、水メタ噴射を使わなくても規定通りのブーストをかけられるのでしょうか?またその時に性能が上下したりする事は有り得るでしょうか? フッフール |
- 米軍の「疾風操縦マニュアル」では、「メタノールが切れた場合、+125mmHg以上だとメタノール噴射ポンプが焼き付く」とありますね。これはエンジン本体は大丈夫だけど水メタポンプが危なくなる、捉えて良いのでしょうか?長文失礼しました。
フッフール
- そのとおりです。
水の気化熱で混合気を冷却する事で、高過給圧・高圧縮比を達成していますので、もしもハイオク燃料でそれが達成できるなら、それでも問題はありません。
きちんと、水メタ噴射・ハイオクのどちらでもセッティングが取れているなら性能差は殆どないと考えられますが、整備性・保守性、更には調整のしやすさ等はハイオクエンジンのほうが優位ですし、重量と容積を食う水メタのタンクを積まないで済むので、飛行機の性能としては有利になるでしょう。
もっとも、ハイオク燃料だけでは足りない程の高過給圧を書ける場合のある連合軍戦闘機では燃料冷却にも頼ってますし、この燃料冷却の冷却効率は水メタよりも悪いので、必要な燃料重量or燃料+水メタ重量では、使い方次第では逆転も考えられますので一概には言えません。
理論上でも水メタとハイオクでは多少燃焼効率等が変化するのですが、セッティングと重量の問題のほうがはるかに大きな影響を齎すので、同じぐらいの過給圧なら同じぐらいの馬力と見なして構わないと考えます。
SUDO
- ありがとうございました。もう一つ疑問なのですが、例えば一式戦二型以降の
エンジンはハ−115、ハ−115IIともに最大ブーストが+300mmHgですが、
(IIの水メタ噴射=100オクタン燃料として) 92と100オクタンで離昇運転時間に
1分〜30分も差が出てしまうのはなぜでしょうか?
ノッキングの問題とはまた別な気がしますし、ハ−45が米軍テスト時では
しっかり回ったのに高オクタン燃料が無かった戦中だと筒温上昇に悩まされた
のと関係があるのかな〜とも思いました。以上素人判断ですがよろしくお願いします。
フッフール
- >3
ハ115の事例は、戦時中に戦闘馬力指定が作られた事とかも影響しているでしょうし、使われている部品、例えばバルブ等が変更されれば耐久時間もまた変わるでしょう。
私は双方のセッティングもスペックも細かいところを知らないので何ともいえません。
またハ45の事例は、日本ではセッティングをきちんと取れなかったという所が大きいようにも感じます(日本のは個人的な印象としてリーンによってると思う)
SUDO
- 誉、栄系に限らず水噴射は管制装置と噴射の形態の改良を続けています。そのため一概に水噴射の有無で考えられない面があります。特に誉は水噴射を如何に効果的に行うか、各気筒への燃料の均等分配をどうやって達成するかで悩みつづけ改良を繰り返したエンジンですから、日本で不調だったエンジンは恐らく米国でも不調でしょう。
また、ハ115IIの離昇運転30分とは出典は何でしょうか。
水噴射の水メタノールタンク容量が30分使用分ということであればわかりますが・・。
BUN
- 米でのテストで、疾風のエンジンを含めて誉が良く回ったのは、試験時に145グレード燃料を使用したのも大きく影響していると思います。
燃料を変えた場合の影響が誉の場合どれだけ出たかは分かりませんが、スピットファイアのマーリン6x系列やグリフォン65の場合、通常使用する所謂100オクタン(130グレード)燃料を150オクタン(145グレード)燃料に代えた場合、戦闘出力時の最大ブースト値は+18から+25に上昇しますし、通常時の戦闘出力最大ブーストである+18の使用可能時間も100オクタン燃料使用時より長くなる(5〜10分に対して約30分)など、燃料変更の影響は少なくないものがあったと思われます。
大塚好古
- 水メタや燃調濃さ等は混合気温度を下げる手段の一つ。
ハイオク燃料は、高温に耐える。というものです。
だから、大塚さんが述べられたような、燃料の質が変わるとブースト時間が延びるのは、ハイブーストで高温になる>いつかどこかで何かが耐えられなくなる>この場合は混合気が最初に隘路に達する>ハイオクで破綻点を先延ばしにした。という事になります。
もし、もっとヤワなエンジンだったら、エンジンのどこか別の場所が先に根を上げるかも知れません(#4でバルブといったのはそういう事です)
以下は全くの想像で根拠薄弱なの話。
日本でハ45が筒温上昇に悩まされたのは、BUNさんが仰ったように水メタ・燃料の均一かつ的確な分配に起因する、冷却問題も大きな要因ではないかと思われます。
もしこれが原因で不調(筒温上昇)が起きていたとしても、ハイオク燃料で筒温の許容範囲(正確には燃焼室温度)が大きくなれば、無事に回ってしまうこともまた充分に考えられると思います。
但し、どういう調整で、またその運転時に計器はどういった表示をしていたのか等が判らないので、まったくの想像に過ぎません。
SUDO
- キ84に搭載する予定のハ45では、燃料分配不良に伴う筒温上昇に悩まされた
燃料の分配状態をいじって、あるシリンダの温度過昇が無くなったと思ったら、今度は別のシリンダが温度過昇になる
終わりの無い、いたちごっこのようなものだった
フィリピンで分捕ったアメリカのガソリン(100/130?)を使ったら、今までの苦労が嘘のように筒温上昇が起こらない
しかし、日本のガソリンでは約1年の年月を費やしても解決することが出来ず、結局ブースト制限が採られることとなった
というような回想があります
ところで、何故、高オクタンガソリンを使用すると、筒温上昇が起こらなくなるのでしょうか
高オクタンは、低オクタンに比べ、より高温混合気でも自己着火や異常燃焼が起きないだけではないのでしょうか
低オクタンだとデトネーション気味になり、その結果、シリンダが過熱するのでしょうか
セミララ
- 皆さんありがとうございます。難しい話になって来ましたね。
「ヤワなエンジン」について、ハ−45はまさにそれに当てはまる
メカニカルオクタン価がとても低いエンジンかと思ってました。
+250や350mmHgの時点で燃料のオクタン価に関係なく
呑まないと(既にガソリン呑んでるがな)自分を出せないのかと。
ハ−115IIの離昇運転30分は「ビルマ航空戦下巻」からの印象でした。
曰く、隼二型は離陸時で+100〜150mmHgを使った。+200mmHgを30分も使って
降りて来ようものなら、整備員に「もっとエンジンをいたわれ!」と怒られた。
三型は水メタ噴射のおかげで+300mmHgを掛けて、短い滑走距離で離陸できた。
空戦でも+300mmHgのままメタノールが切れるまで40分振り回せたとの事です。
30分はこれまでの公称運転時間制限に勝手に当てはめてしまいました。ご免なさい。
フッフール
- >8
たぶん日米でガソリンの蒸留性状が異なるのではないかと想像します。
これも想像に過ぎませんが、日本のガソリンで適正な分配が困難だったのは、混合気がきちんと作られていないという可能性が考えられます。
ガソリンが適性に空気の中に溶け込んだものが「良い混合気」なのですが、ガソリンの蒸留性状が悪いと、ガソリンの粒子の大きさや密度にムラが出来、それが安定した燃焼の足枷になります(一般に加速性や始動性の悪化に繋がる)
ただし、この蒸留性状が高くなるとペーパーロックを起こしやすくなります(揮発性が高いのだから当然)低音でも揮発するガソリンは高温時には揮発性が高すぎますし、逆も然り。エンジンが望む適性な混合気を与えるというのは結構難しいものです。
日米のガソリンでこれらの性能が異なっていた可能性は否定できないのではないかと想像します。
SUDO
- >8 「何故、高オクタンガソリンを使用すると、筒温上昇が起こらなくなるのでしょうか」
通常の燃焼時は燃焼室・シリンダー・ピストン表面に混合気の境界層(未燃ガス層)があって、
これが燃焼ガスからの熱伝達を減じてピストン等の焼損を防いでいます。
(燃焼ガス温度の方が、これらの材料の耐熱温度よりも余程高い。)
ところがノッキング等の異常燃焼を起こすと燃焼速度が通常の燃焼時より1桁以上早くなり、
高周波の圧力振動(衝撃波ですね)がこの境界層を破壊する為に、燃焼室・シリンダー・ピストンへの
熱伝達が著しく増大するので筒温上昇を招きます。
高オクタン燃料は耐ノッキングが高いので異常な筒温上昇には有利と言えます。
高オクタン燃料で燃焼室の許容温度が変わる事はありませんが、水メタの分配不良があっても
ノッキングを起こし難いことからハイブーストを掛けることは可能だと思います。
ガソリンエンジンの高性能化はノッキングとの戦いです。
燃料のオクタン価が一番効きますが、未燃焼ガスの圧力・温度・時間でノッキングの発生が変わります。
圧力は(圧縮比を上げるにしてもブーストを上げるにしても)高性能化には避けられませんので、
温度を下げるのには水メタが、時間を短くする為にツインプラグ等が考案されたんですね。
papanambu
- >#10 SUDOさん #11 papanambu さん
御返答ありがとうございました
アメリカのグレード115/145のガソリンを使ったら、誉が2500hp出したとか、彩雲パイロットの証言に、「フィリピンで分捕ったアメリカのガソリンを使うと、10ノットは軽く違う」なんてのがありますね
セミララ