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毎度素人質問で恐縮です。いつもご回答有り難うございます。さて、プロペラ交流を考慮しなかった空技廠の風洞実験のデータを採用したために紫電の空力特性は悪かったという記述を読んだ事があるのですが、大幅な改良を行っった紫電改においてその劣悪な空力特性は改善されたのでしょうか?どなたかご教授お願いいたします。 ふらんく |
- プロペラ後流の収縮を考慮に入れていなかったというのは、紫電ではなく雷電に適用された、いわゆる「紡錘形理論」です。紫電の空力で問題になったのは、主翼後半部と胴体のラインのつながりが悪いのを埋めるためにフィレットが巨大化して、しかもその乱流発生防止の効果が十分ではなかったことです。このため、紫電改では胴体の完全再設計に至ります。
「紡錘形理論」自体は零式以降の三菱機の多くに適用され、一式陸攻、キ46、キ83等の胴体では効果的だったとされており、零戦の胴体設計にあたっても「燃料タンク付近の容積とコクピットの高さ(視界)を確保しつつ抵抗の増大を最小限に抑える」のに有効だったといわれています。
雷電の場合は適用が極端だったため、収縮流との相性の悪さのみならず無駄な正面面積の増加や層流剥離といった空力上の問題が生じたこととともに、視界の悪化や発動機延長軸のトラブル(振動問題は1800馬力級火星なら軸の長短に関わりないそうですが)にもつながった機体形状そのものに起因する設計上の問題が大きいのです。
プロペラ後流中における「紡錘形理論」の限界はアメリカでは1930年代にエアレーサーの設計において顕在化していますが、それでもある程度は有効だと考えられていたらしく、セバスキー/リパブリック社の機体にその残滓が見られます。
Schump
- 雷電と零戦とでは理念にちょっとした差があるんです。
雷電の場合は、従来全長の30%付近にあった最大直径部が、40%まで後退しています。この40%って、良く見かける数字でしょ。ほら、層流翼の解説で。
先端を絞って尖らせる。最大翼厚をたっぷりと取る。これ、すべて層流翼の考え方。雷電の胴体は境界層剥離を遅らせようとしてるんですよ。
同じ方針に基づいた十二試陸攻の胴体基礎設計が昭和13年。それから、主翼を半分層流翼にした十三試艦爆もその年。主翼に全面的に層流翼を採用した場合の揚力発生の問題はまだ解明しきれていない時期ですが、そんなこと関係のない胴体から、空技廠科学部が提唱して、この考え方が以降の海軍の新開発機の設計に統一的に取り入れることになっていったのだ、と考えています。
ですから、紫電の原型となった強風も雷電と同じ考え方に従い、ほとんど変わらぬ胴体のライン(スピナーも含めて考えること)をもっています。違ってたのは、二重反転ペラで設計された強風の方がカウリング自体は短かくて済んでいることですね。
片
- 便乗質問お願いします。
2>すべて層流翼の考え方。雷電の胴体は境界層剥離を遅らせようとしてるんですよ。
層流翼は、層流境界層をできるだけ長く維持して乱流境界層への遷移を遅らせ、表面摩擦抗力を減少させることが目的でなかったでしょうか。
プロペラ後流中で層流境界層が形成可能か、ということについて1930年代当時では判明していなかったのでしょうか。
中年受験生
- >3
ごもっともな御指摘です。もう少し調べさせてください。
ひとつ考え合わせなくてはならないのは、彗星がプロペラ直後の内翼に層流翼型を採用していることですね。
あまり色々なものをごっちゃにしてはいけないのですが、彗星の翼型も含めてこの時点での空技廠科学部は層流翼型「的」なものを風洞内での現象から経験的に知っているに留まっていたようです。層流翼理論としてOKになるのは航研の谷助教授に委嘱した研究が成果を挙げた14年後半以降のことになります。
片