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はじめまして。「マニア」までは到達しない飛行機好きの者です。 レベルの低い質問で申しわけありませんが2つ質問させてください。 1「ハ505について」 富嶽の串型4列エンジンでは後方のシリンダーに風があたり難く「どうやっても冷却不足」と本で読んだのですが、ポルシェのスポーツカーの様に大きなオイルクーラーで「油冷」とする事はできなかったのでしょうか? 2「烈風のサイズ」 艦上戦闘機は空母搭載を考えると少しでも小さい方がいいと思いますが、烈風は日本では異例の大きさです。この大きさによるメリットはなんですか?低翼面過重による安定性と運動性は得られると思いますが疾風や紫電改やベアキャットよりもはるかに空戦能力が高いのでしょうか? 以上お願いします。 ねんど |
- > 2「烈風のサイズ」
烈風の機体サイズは、十七試艦戦計画要求書で求められている航続距離と離艦/着艦性能を求めた結果だと思います。
確かに烈風は九六式艦戦や零式艦戦よりはるかに大きいのですが、同時期のF6FやF4Uと比較するとそれほど極端な違いがある訳ではありません。
疾風や紫電改、F8Fより低翼面荷重でかつ自動空戦フラップを装備する予定になっていた烈風は運動性能についてはこれらの機体より優れていると思われますが、空戦性能には様々な要因が複雑に絡むので必ずしも空戦性能が高いとは言えないと思います。
T216
- >T216様
回答有難う御座います。
私がこの様な疑問を持ったのも、米軍機に関してもF6F→F8Fへと発展する折小型化されておりますし(この際F7Fは無視しますが…)小さい方が当然被弾しにくいでしょうから、戦闘機、ましてや艦上戦闘機にとっては小さい事はかなり重要なファクターだと思いました。また疾風や紫電改に関する記述を読むと、概してエンジンが所要の性能を発揮した機体に関しては運動性、抗甚性も含めて極めて優秀だったとされています。そして速力や航続力などをいくつかの資料を元に比較すると大差がない事に気付きました。爆弾搭載量が多い訳でもなく、ましてやご指摘のように「必ずしも空戦性能が高いとは言えない」とすると、烈風は一体「小ささ」と引き換えに何を得ようとしたのか?ここら変の所がいまいち解せなかったのです。
これはずばり「離着艦性」と言う事で良いのでしょうか?
だとしたら離着艦性とはそれほど重要な事なのでしょうか?翼の小さい彗星も艦上機ですし、紫電改も艦上運用を企図されたといいますし、紫電改並みの大きさではどうしてもダメだったのでしょうか?それとも熟練搭乗員の減少まで計算に入っていたのでしょうか?…
ねんど
- >1.
四列空冷星型エンジンにはプラット&ホィットニー R-4360 という立派な実績があります。但しこれは 7 x 4 = 28 気筒で、ハ-505 の 9 x 4 = 36 気筒よりは余裕のある設計ですが。
http://www.wpafb.af.mil/museum/engines/eng34a.htm
4 列のシリンダをネジったように並べ、気筒間の隙間に排気管を配し、吸気管をシリンダヘッド上に通しています。機体に装着されるときは排気管とシリンダヘッドの間に導風板(バッフルプレート)が装着され、排気管の熱がシリンダに戻らないよう考慮されています。
>油冷
空冷 18 気筒のブリストル・セントーラスを積んだホーカー・シーフューリー戦闘機はカウリング先端を急激に絞ったうえ大型のスピナを付けており、スピナとカウリングの隙間は 10cm 程しかありません。しかし強制空冷ファンは付けておらず、左翼付け根に大型のオイルクーラーを付けて対処しているように見受けられます。
シーフューリーに前述の R-4360 を積んだエアレース用改造機(「ドレッドノート」および「フューリアス」)では右翼にもオイルクーラーが増設されており、更にレース時の高出力運転に備えオイルクーラーへの水散布装置も備えています。
以上のことから、ハ-505 の冷却は工夫を凝らせば成立し得たと思います。但しそれが当事の日本で実用化できたかどうかは極めて疑問ですが。
(冷却以前にまともに回るかどうかも疑問です。R-4360 は空冷星型エンジンについて世界最高の技術を持つ P&W 社がその知識と経験を総動員して、それでも大戦中の量産機には間に合わなかったのですから)。
ささき
- ↑吸気管、排気管の記述は逆かも知れません。信用しないでください(^_^;)
ささき
- >F6F→F8Fへと発展する折小型化
F8Fは米海軍の要求によって開発が始まったのではなく、グラマン社の自主開発から始まっています。
それに対しF7Fは米海軍からの要求で開発が始まったXF5Fがそもそもの始まりです。
大出力エンジンや大威力火器を搭載する以上、機体の大型化は必然であり(勿論なるべく小型であるほうが望ましいのですが)、むしろF8Fの小型化の方が時流に逆らったものなのではないでしょうか。
事実ジェット機が出現すると、より旧式で大型のF4Uが生き残る中、F8Fはとっとと退役させられています。
>運動性、抗甚性も含めて極めて優秀だった(中略)速力や航続力などをいくつかの資料を元に比較すると大差がない
運動性に関しては1.に書きましたので略しますが、調子の良好な疾風がF4Uに格闘戦で遅れを取ったこともあったようです(因みに疾風のパイロットは超熟練者)。
防弾については計画書などに記されている装備が烈風に施されていれば、そう大差はないと思います。
また烈風の航続距離は実測値がないので、はっきりしたことは言えないと思います。
ただ疾風や紫電改と同じ誉を搭載する試製烈風(A7M1)の燃料搭載量が912L(機体)+630L(増槽)であるのに対し、試製紫電改の燃料搭載量は970L(機体)+400L(増槽)となっています。
そして、烈風一一型の取扱説明書(案)に記載されている燃料搭載量は847L(機体)+600L(増槽)であるのに対し、紫電改の取扱説明書に記載されている燃料搭載量は716L(機体)+400L(増槽)となっています(どちらも機体の燃料搭載量が減少しているのは燃料タンクに防弾処置を施したためと思われる)。
航続距離にはエンジンやプロペラ、機体の空力特性などが絡むので燃料搭載量だけでは推測は困難ですが、烈風が紫電改より遠距離を飛ぼうとしている傾向があると思います。
>必ずしも空戦性能が高いとは言えない
まあ、少なくとも運動性能は高いと考えられ、その他の性能も低いとも言えないと思うのですが…。
>離着艦性とはそれほど重要な事なのでしょうか
御存知かと思いますが日本海軍が空母から攻撃隊を発艦させる際には艦首から艦戦、艦爆、艦攻の順に並べます。
ということは必然的に艦戦が最も短い滑走距離で離艦しなければならず、一番高い離艦性能を要求されます(同時に多数機を発艦させようとすればするほど条件は厳しくなる)。
そして、発艦出来ない艦戦の価値がゼロであるのは言うまでもありません。
>翼の小さい彗星も艦上機
彗星の主翼が小さいのは高速性能を求めたためだと思うのですが、そのせいか彗星の離艦性能は余り芳しいものではなかったと聞きます。
しかし、艦爆である彗星は艦戦の後に発艦するため艦戦より滑走距離が長く取れるので何とかなったのでしょう。
また翼面荷重がやたらと高い日本艦上機としては彩雲がありますが、通常艦偵は艦偵のみで、しかも少数機で発艦しますので飛行甲板を思いっきり使えます。
>紫電改も艦上運用を企図された
紫電改二/四(紫電改艦上機型)がどの程度の空母からの運用を前提にしていたのか寡聞にして知りませんが、艦上機運用テストを行ったのはあの信濃です。
それに対し、烈風は計画段階から中小型空母からの運用を前提にしていることに着目するべきなのではないかと思います。
参考文献:世界の傑作機No.53,69,94
学研歴史群像シリーズ24,40
T216
- >ささき様
コレはすばらしい!「余裕のある設計」どころかなんとタイトで美しいエンジンでしょう!
私も「冷却できれば富嶽が飛ぶ」と思っているわけではありませんが日本にもP&Wのようなメーカーがあったらなあとため息が出ますね…
で、シリンダーの間に通すのは吸気か排気か。放熱性を考えると吸気の方が良さそうですが、吸気温度を考えると排気のほうが良さそうですね。写真では間を通ってる方が太く見えますので、やはりこちらが吸気管でしょうかね。
オイルクーラーの件も了解しました
すばらしい回答有難うございました!
>T216様
なるほど私は「離着艦性」は主に「着艦性」→搭乗員の慣熟である程度カバーできる、という風にイメージしていたので、発艦順序は見落としていました!
考えてみれば比較したベアキャットも小型空母で運用を目指したそうですが、空母用カタパルトの有無によって大型化するか小型化するか大きく分かれますよね。(エセックス級など正規空母の場合は米軍もカタパルトは通常使わないとか…)
つまりは
「現用機と同等以上の格闘性能と、速力、航続力、上昇力を持ち、それに空母で容易に運用できる離着艦性を付与したらああなった」
というまさに1のレスのとおりな訳ですね!
物分かりの悪い小生に丁寧に解説いただき感謝します!
また研究に励みます。
ねんど
- エアレーサー写真集に「スーパーコルセア(F4U-1D に R-4360 を積んだ改造レーサー、1994 年に事故で損失)」のカウリングを外したクリアな写真がありましたが、最初の記述どおりシリンダ真上を通っているのが吸気管、シリンダとシリンダの間を通っているのが排気管でした。大胆なレイアウトですね…。「エンジンのロマン」の中で鈴木孝氏は「複雑な形状は芸術を超えている。膨大な実験がこの為に繰り返されたのであろう」と述べていますが、肯かされます。
ささき
- 烈風について:
後ろの本棚にある本のどれか思い出せないのですが(爆)、烈風は最初の試作では
かなり良好な結果を出したのですが、要求どおりの機動性をしていたにもかかわら
ず、海軍の方で「翼面過重の値」にこだわり過ぎた為、過重の数値を満たすためにあんなでかさになり、しかも機動性が落ちて本末転倒になったという記事を見たこ
とがあります。「飛行機として」ではなく、「格闘戦」の幻想に囚われて翼面過重
に固執していた海軍を批判した技術者の回顧録みたいな物だったと思います。
孫の世代
- >烈風は最初の試作ではかなり良好な結果を出した
寡聞にして、私はこの様なことを聞いたことがありません。
私が知る烈風最初の試作型は5.にも書いたように誉22型を装備する試製烈風(A7M1)で、最高速度や上昇力が要求性能はおろか零戦にも及ばずに終わっていますので、「かなり良好な結果」を出すには及んでいません。
ただ、実機を製作する前に行われた模型を用いた風洞実験において、その空力特性が評価されたと聞きます。
もしその様なことが本当にあったのであれば、具体的にお教え願えないでしょうか。
>「格闘戦」の幻想に囚われて翼面過重に固執していた海軍
これも5.に書いたことですが、烈風の翼面荷重値の決定には空戦性能だけではなく離着艦性能が深く影響しています。
なお、十七試艦戦の試作に当たって翼面荷重値には130s/u案と150s/u案の二つが存在し、どちらにするか激論が交わされていますが結局結論は出ず、まず130s/uの主翼を持つ機体を試作し、その後150s/uの主翼を持つ機体を試作することになっています(実際に作られたのは130s/uの主翼を持つ機体のみ)。
このことと、烈風と同時期に構想されていた陸上戦闘機(艦戦より高翼面荷重でよい)の翼面荷重が150s/u想定されていたことを合わせて考えると、海軍がむやみやたらと低翼面荷重に拘っていた訳ではないと思います(日本海軍が格闘戦重視であったことは事実ですが)。
T216
- ポルシェって言ってるのは、旧911のことだと思いますが、程度の違いはあれ、潤滑オイルの役割の大きな要素は「冷却」ですから、ほとんどのエンジンがオイルによる冷却をやっています。
あんまりそれに頼りすぎると、大容量のスカベンジポンプはいるし、オイルクーラーはでかくなるし、オイルタンクもでかくしてオイルを大量に積まなきゃなんないしでデメリットの方が多いような気がします。
胃袋3分の1
- F8F について
あの機体は自然の流れで小型化したのではなく、あくまで“小さくまとめた”のではないでしょうか?
流れとしては明らかに大型化の方向にあったのですが、F6F はいくらなんでも重すぎたと。
で、軽い機体をつくりたいのですが、生産性や機体の剛性を悪化させるわけにはいかない。
そのため安定性を犠牲にしてまで全長を短縮したのだと思います。
烈風について
烈風が離間距離を短くするために低翼面荷重を指定されたことはよく聞きますが、
低翼面荷重のために大型化というのは少しおかしくないでしょうか?
(そもそも私も烈風がそんなに大きいとは思いませんが。)
F6F より全長も翼面積も相当に小さい F8F の低翼面荷重は F6F より少々増した程度です。
小型化によって軽くなったためです。
低翼面荷重を実現するだけなら、翼面積の増大だけでなく機体の軽量化でもいいわけです。
つまり、全幅が大きくなるのは説明できても全長が長いのは説明できない、ということです。
烈風のあのサイズは旋回性能や安定性のよさを求められた“当然の帰結”だと感じます。
翼面積指定がなければ多少全幅は小さくなったかもしれませんが、全長までは変わったとは思えず、
結局似たようなサイズに落ち着いたのでは、と考えています。
アガスティア
- >11
烈風の要求性能には航続時間と武装が定められています。
この2点から凡その重量が定まり、その上で翼面荷重を指定されたら、主翼サイズも概ね定まるだけの事ではないかと。
烈風の計画要求書には「なるべく小型なること」と明記されていますので、大きな飛行機を望んでいた訳ではない事は明らかです。
零戦よりも重武装で大馬力で長時間飛べとの要求から、零戦よりも絶対的に図体が大きく重くなるだけの事でしょう。
SUDO
- >T216様
"「格闘戦」の幻想に囚われて翼面過重に固執していた海軍を批判した技術者の回顧録みたいな物"とありますように、具体的な開発過程を記したものではなく、「けっこういい感じに行っていたが、海軍のプライドのせいで本末転倒になった。」という記述が主であったと思います。
そこで特に強調されていたのが海軍は「翼面過重は??gであるべきで、そうでなければ要求どおりの機動性が出るわけが無い。」と、とにかく翼面過重に拘っていたが、それは開発する技術者が心配することであって、外野が口を出すべきではない。」と、言うことでしたので、詳細に関して私に噛み付かれても困ります。
そのため、そこで言われていた最初の試作が風洞実験なのか実機なのかは私としては否定も肯定も出来ません。もっとも、最初の実機としてデモンストレーションをした試作機が凡庸だったのは皆さんご存知のとおりなので、その前段階であろうことは推測できますが。
記事の出典に関しては、かなーーーーり前の雑誌であった記憶はありますが、航空ファンなのか軍事研究なのか丸なのかそれ以外なのか・・・それ以上思い出せません。なので、「ソースを出せ!」はご容赦願いします。
孫の世代
- >14.
了解しました。
少し言い方が悪かったのですが、聞いたことのない話だったので、具体的な内容を知りたいと思ったもので。
失礼しました。
T216
- 皆様、更なる回答有難う御座います。
>孫の世代様
つまりは「合理的な理由もなくデカい」という事でしょうか?
>アガスティア様
私がそもそもお聞きしたいのはつまりは「紫電改より大きいという事はそれによって何か決定的に紫電改より優れている事があるはずでそれは何か?」という事です。他の言い方をすれば「何故紫電改程度の大きさにできなかったか」という事です。私や(多分T216様も)「大きさ」の代表的要素として翼面過重を扱っているだけで、結局の所全長が大きいのも「現用機の諸性能を更新し、尚且つ空母運用上の安定性を考慮したから」ではないのですか?失礼ながらアスカディア様の回答にはT216様の回答以上の結論が見出せません。
>胃袋3分の1様
油冷によるデメリットのご指摘、有難う御座いました。
その他書き込みの皆様も有難う御座います。
ねんど