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過去ログで「T字尾翼は、超音速飛行時エナーシャカップリングを起こしやすい」という記事を見たんですが、 エナーシャカップリングとはどういったものなんでしょうか? とりとん |
- イナーシャカップリングとは、機体のヨー又はピッチ方向の運動に、胴体の慣性モーメントによって勢いがつき、尾翼の安定作用ではこれを止めきれなくなることをいいます。
F-100等の超音速領域に突入し始めたころのジェット戦闘機に多発した現象で、前端にコクピット・電子装置・機関砲等、後端にエンジン・アフターバーナーを配して両端が重くなった胴体と、抵抗を減らすために幅の狭くなった主翼(=左右に振れたときに空気抵抗差により機体を安定させる力が働くテコのアームが短い)とが組み合わされたことによって顕在化したといわれています。
T尾翼とイナーシャカップリングには直接の関係はありませんが、F-104の場合、胴体の慣性モーメントによって機首上げに勢いがつき、一瞬にして20度以上の迎角がついてしまうことがありました。この状態では、主翼上面から吹き降ろし方向に流れている後流が水平尾翼を上から押し付ける格好になるため、制御不能の機首上げがかかって失速にいたる危険性があります。そこで、F-104には迎角20度・機首上げ角速度毎秒20度以上になる場合には強制的に機種下げ方向に操舵する装置がついていました。
Schump
- 飛行機の重心で各々直交する前後・左右・上下方向の軸を中心とする回転運動をそれぞれローリング・ピッチング・ヨーイングと呼ぶことは
御存知かと思います。 通常、エレベーターによるピッチの変更はロール・ヨー等他の軸周りの運動を伴わないのに対し(理想ではですね)、
ラダーの操舵によるヨー軸周りの運動は、ローリングを伴い、又、エルロンによるロール軸周りの運動はヨーイングを伴います。
この様に、ある軸周りに加えられた操作に応じ、その軸のみならず他の軸周りの運動を伴う現象を「カップリング」と呼び、前述の例は
「エアロダイナミック・カップリング」と呼ばれます。
さて、重心を通る「軸」、と書きましたが、正確には機体の運動に着眼した場合、2種類の軸が考えられます。
一つはその機体に作用する相対風と平行な向きを前後方向とする「Aerodynamic Axis」、
もう一つは軸周りの慣性モーメントが最少になるように選んだ軸、「Inertia(慣性) Axis」です。
前後方向の「Inertia Axis」は、重心を通る機体の前後軸とほぼ一致するはずですね。 通常の水平飛行では、「Aerodynamic Axis」は
「Inertia Axis」に対し迎え角αをもって交差しています。
今、水平飛行から「Aerodynamic Axis」を中心軸としてロールした際、どんな現象がおこるでしょうか。
「Inertia Axis」は「Aerodynamic Axis」と迎え角αをもって交差していますから、重心の前側の重量は回転軸より上側、
逆に重心より後側の重量は回転軸より下側に位置しています。これらはロールの遠心力で外側に作用し、迎え角αが正であればピッチアップ、
負であればピッチダウンさせる力として作用します。
これがロールに於ける「イナーシャ(慣性)カップリング」であり、超音速機のような前後長が長く翼幅の狭い機体に特に顕著であるものの、
多かれ少なかれすべての固定翼機に見られる現象です。
尚、「Inertia Axis」を軸として運動を行った場合、「イナーシャカップリング」は顕れないものの、「エアロダイナミック・カップリング」が
顕著に作用することになります。
みなと
- イナーシャ・カプリングによる空中分解事故を起こして、この問題がクローズアップされるきっかけになったのが
F-100ですから、イナーシャ・カプリングがT尾翼機に特有のものではないのは明らかですね。
なおこの時の対策は、垂直尾翼をやや高くして、主翼幅も増すことでした。
F-100は生産型では垂直尾翼を切り詰めていましたので、もし試作機とおなじ
丈の高い尾翼のままであったら、事故は起きなかったかもしれないとも言われます。
便利少尉