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2932 疾風や紫電改の操縦席後部の防弾鋼板とはただの鉄板でしょうか、それとも特殊なものなのでしょうか?
三太郎

  1. 防弾鋼板というのは焼きの入った堅い鉄板のことをさしますので、だだの鉄板ではありません。
    流れ者

  2. 飛行機用の防弾鋼板の成分や熱処理がどうなっているのかは、
    知らないのですが、一般論として、鉄と鋼の違いについて、
    簡単に説明します。

    まず、鉄[Fe]という元素があります。鉄[Fe]に合金元素として
    炭素[C]を添加したものを炭素鋼[stell]と呼びます。ちなみに
    炭素鋼とは、一般的に炭素の含有量が0.02〜2%の範囲です。
    炭素鋼は、その炭素の量により、焼入れを行なった場合の硬さが
    著しく増加します。一方、硬さの増加とともに、靭性や延性が
    低下します。靭性や延性は、物質の割れ難さや伸びる量を表す言葉です。

    炭素鋼とは別に、合金鋼というものがあります。合金鋼とは、鉄に
    炭素[C]以外の合金元素として、ニッケル[Ni]、クロム[Cr]、
    モリブデン[Mo]、マンガン、[Mn]などを添加したものです。
    これらの合金元素も、鋼を硬くする働きがあります。ただし、硬さ
    を上げるには、炭素[C]の添加が最も効果的であり、普通は炭素が
    併用されます。炭素以外の合金元素は、どちらかというと硬さ以外
    の性能、特に靭性や延性を低下させないために添加させるものなの
    です。

    ということで、防弾鋼板には、単なる炭素鋼ではなく、合金鋼が
    使われるのが一般的です。

    実は、鉄と鋼を語る上で、熱処理の説明を入れないのは、問題なん
    ですが、あまりに長くなるので、ここでは、それは書きません。

    あと、余談として
    現代では、超強力鋼(マルエージング鋼)というものが存在します。
    これは、Fe基にNi、Co、Mo、Ti、Alなどを一定量添加して、その他
    の元素(特にC、N、O、Si)などは、不純物として可能な限り取り除
    きます。そして、固溶化熱処理−時効硬化熱処理を加えると、超強力
    な鋼ができるのです!

    例えば日立金属のYAG250という、超強力鋼の機械的性質は、下記の
    通りです。比較用に、戦艦「大和」の舷側甲板用のVHの規格値を
    その横に書いておきます。

    呼称  :YAG250  VH
    耐力  :1700MPa  392MPa←降伏点
    引張強さ:1790MPa  785MPa
    伸び  :13%   20%
    絞り  :52%   40%

    伸びはちょっと劣りますが、それ以外の性能は、完全に凌駕しています。

    超強力鋼の用途ですが、航空宇宙分野の他、ゴルフのアイアンヘッド
    に使われていたりするから驚きです(笑)。

    きっと、現代の装甲の材質には、これと同等以上のものが使われている
    のでしょう。
    いちのへ

  3. 詳しい事は知らないのですが、「海軍製鋼技術物語」によると海軍の防弾鋼板に使われたのは殆どが第二種と呼ばれたもので、Ni-Cr-Mo鋼であった第一種に対して資源節約のためNiとMoを使用しない事が特徴のようです。
    Cが0.2%くらい、SiとMnが1%弱、Crが1%強含まれており、厚さは8ミリもしくは12ミリ。浸炭加工が施されている、とあります。機械的性質については特に書かれていないないようで、私にはわかりません。
    摂津

  4. 海軍製鋼技術物語の著者、掘川先生には先日のwarbirdsのオフ会で講演して戴きましたけれども、その場でも海軍が使用した陸軍の防弾鋼の話題が少し出ていました。防弾鋼第一種は浸炭されない鋼板、防弾鋼第二種は浸炭処理を前提とした低炭素鋼(浸炭処理により、硬いけれども脆くなった表面を裏側の柔らかくてねばい低炭素鋼で支える)であることが特徴です。掘川先生は「陸軍の装甲はウスくてつまんねぇんだな」と笑っていらっしゃいましたが、薄いなりに耐弾性を高める努力が払われています。

    陸軍戦闘機の操縦者背面装甲は炭素の含有量が0.39程度のニッケルクロムモリブデン鋼で、硬さはブリネルで550程度、ビッカースで620程度のものでした。
    BUN

  5. >4,補足訂正、どうも有り難うございます。大変勉強になります。
    便乗質問になってしまいますが、それでは第三種は浸炭処理されていたのでしょうか。(第一種、第二種、第三種とも全て浸炭用とあるもので…)
    よろしければ、どうか御教授御願いいたします。
    摂津

  6. 第三種は浸炭処理しない厚手の装甲板で「ヤスリもかかるだろうなぁ」といった話を当日もしたように思います。九七式中戦車、九七式装甲車等の装甲は第一種と第二種で構成され(これは明確な史料が現存します)、三式中戦車等が使用した装甲等が第三種に相当するものです。
    (オフ会当日は司会を務めておりましたのでノート等を取っていない為、掘川先生の発言は、あくまでも雰囲気のみ(笑)伝えているとお考えください)
    BUN

  7. 貴重な御回答有難うございます。
    陸軍戦車の装甲と海軍機の防弾鋼板が同じ材質だったとは驚きました。早速メモしておかねば…
    摂津

  8. やや脱線

    >>いちのへ氏
    YAG300級で伸びが3倍以上出てくれれば…あるいわ…
    それ以前に300mm以上の厚板ができること、圧延・熱処理後の強度偏差(σ)が数%以下であること、
    そして溶接後のアニーリングで…とまぁ、非常に高い水準が要求されます>現代の奴ぁ

    良好な溶接性っちゅう項目さえなければナンボでも高い強度の材料作れるんですけど。

    sorya

  9. soryaさん>

    >YAG300級で伸びが3倍以上出てくれれば…あるいわ…

    呼称  :YAG300  YAG350
    耐力  :1910MPa  2310MPa
    引張強さ:2010MPa  2400MPa
    伸び  :10%   8%
    絞り  :48%   45%

    これの3倍ですから、30%近い伸びが必要なんですね。

    >それ以前に300mm以上の厚板ができること、圧延・熱処理後の強度偏差(σ)
    >が数%以下であること、そして溶接後のアニーリングで…とまぁ、非常に
    >高い水準が要求されます>現代の奴ぁ
    >
    >良好な溶接性っちゅう項目さえなければナンボでも高い強度の材料作れる
    >んですけど。

    ああそうか、マルエージング鋼って、溶接すると、強度偏差がえらいことに
    なりますね・・・。現代の装甲材料って、すごいなー。
    いちのへ

  10. bf109等は積層アルミ製の防弾板を使っていたそうですが
    これって、鉄製の同じくらいの防弾力の装甲板と比較した場合
    どんな評がついていたのでしょうか?
    便乗


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