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よく機関砲の初速という言葉がでてきますが、発射直後最高速度に達した後、速度はミサイルのように伸びないと思うのですが、日本の大口径砲の初速が遅いというのはどういうことをいうのでしょうか。また搭載機関砲によって初速がかなり違うのは薬きょう内の炸薬の量が違うため、砲身の耐久力の違いからくるのでしょうか。まったく別の要因からくるのでしょうか。 ビギナー |
- >日本の大口径砲の初速が遅いというのはどういうことをいうのでしょうか。
文字通り日本の大口径砲の初速が遅いということです。
ここの別館、ささきさんのAviation★Planet 航空機銃研究所に第二次世界大戦で使われた航空機銃について解説してあります。一例として20mmをあげてみると、
日本陸軍 ホ-5 20mm 機関砲 銃口初速 735m/s
日本海軍 99式 20mm 機銃 銃口初速 600m/s(一号) 750m/s(二号)
ドイツ空軍 MG151/20 銃口初速 710m/s(115g弾頭) 800m/s(92g弾頭)
英空軍 イスパノ 20mm 機関砲 銃口初速 878m/s(Mk.II) 838m/s(Mk.V)
となってます。
>搭載機関砲によって初速がかなり違うのは薬きょう内の炸薬の量が違うため、砲身の耐久力の違いからくるのでしょうか。
基本的なことですが、銃砲に限らず物体の速度は
速度(初速)=加速度×加速時間
です。そして
炸薬の量が多い→加速度が大きい
砲身が長い→加速時間が長い
となります。砲身の耐久力うんぬんは弾の速度とは直接関係ありません。
epitaph
- 補足。
加速度=加速方向にかかる力÷加速される物体の質量
ですから、同種の弾薬(発射薬の種類と量が同じ)でも弾頭重量が重いと初速は落ちます。
また、加速に使われる力は、基本的に砲身の内部圧力(腔圧)と弾頭の底面積の積に比例しますが、初速を稼ごうとしてやたらに発射薬を詰めこんで砲身の強度を超える圧力が生じると壊れてしまうので、一応は砲身の強度も初速に関係あります(予定した初速に応じて強度設計する、といったほうが正確)。
なお、一般的には、弾頭の速度が、飛翔中に初速以上に伸びることはありません(ホ301は?という自己ツッコミはしてみる^^;)。よって有効射程、弾道の直進性、貫通力といった銃砲の基本性能は、初速と弾頭重量によってほぼ決まってしまうといっていいわけです。
Schump
- ついでにうかがいます。これだけ物理学的に解明されているのでしたら、なぜ旧日本軍はションベン弾と揶揄されるような発射速度(初速)の遅い機関砲しか装備できなかったのでしょうか。
ビギナー
- 日本海軍が零戦に採用した九九式二〇粍一号機銃の初速がやや小さいというだけではないでしょうか。しかしこれもMe109EからFの初期型、Fw190A等が採用しているMG-FFと原型を同じくするエリコン系の機銃です。九九式二〇粍一号機銃は当時の標準的な二〇粍機銃と言う事ができると思います。昭和十七年末から装備機が出始める九九式二〇粍二号機銃に初速の問題はありません。
零戦の兵装は、計画要求を審議する段階で艦隊上空へ来襲する敵攻撃機を20mmで攻撃し、戦艦部隊の砲戦中、敵の観測機を7.7mmで撃破するという構想で決定されています。どの機銃をどう使うつもりでいたかという運用構想も、こうした問題を考える時には大切だと思います。
BUN
- >3.ささきさんのAviation★PlanetのFAQ
http://www.warbirds.nu/crazy/jp/gun/faq.htm
の最後のQ&Aをお読み下さい。
epitaph
- 大口径砲の初速が遅いのは、重い弾ほど遅い傾向があります。同じ20ミリでも重量が軽い弾は、初速が早くなります。(五式戦用の機銃がそう。)
また、連射速度も関係があり、高初速にすると、1秒あたりの発射弾数が少なくなる傾向があります。零戦用の後で「改良」された機銃は、初速こそ早くなったものの、連射速度が遅くなっています。
もっと極端な例では、対空用の20ミリ機関銃は、初速こそ早いものの、秒あたりの連射は航空機用よりもだいぶ少なくなります。
benben
- ↑九九式一号銃と二号銃の弾丸重量は同じですね。
BUN
- >薬きょう内の炸薬の量が違うため
炸薬というのは、砲弾内に詰め込んである、砲弾を炸裂させるための火薬を言います。
薬莢内に装填されており、砲(銃)弾を飛ばす火薬は装薬という場合が多いようです。(他に発射薬という言い方をしてる資料もあるようです。)
炸薬と装薬では、使用している火薬の燃焼速度が違うそうなので、炸薬用の火薬を薬莢内に装填して発射すると銃の方が炸裂してしまう可能性が高いでしょう。
SAW
- いろいろありがとうございました。あまり銃砲にはくわしくないので、勉強になりました。結局は米軍機は13mmの6連装で充分だったのに、日本軍機は20mmでないと対抗できなかったため、パイロットが7.7mmや13mmとの比較で初速が遅いと嘆いていたのが、戦後手記や記事にになったわけですね。アメリカやヨーロッパでも30mm以上の大口径砲を搭載した特殊軍用機がありますが、対戦闘機用には同じような問題をかかえていたのでしょうね。
ビギナー
- >日本の大口径砲の初速が遅い
必ずしもそうは言えません。ドイツの大口径高初速 30mm MK103(920m/s) の実用化には難航して大量配備にはこぎつけていませんし(低初速 500m/s の MK108 が大量使用されたのとは対照的)、アメリカの 37mm M4/M10(エアラコブラ) の初速は 600m/s 程度でホ-203(屠龍)と大差ありません。
高射砲や対戦車砲を改造したドイツの BK シリーズは反則的存在で、高威力の代わりすさまじく重量が重く(37mm BK3.7 で約 300Kg)発射速度が低い欠点を持っており、一部を除いて大した活躍はしていません。アメリカも初速 900m/s を誇る 37mm M9(これも高射機関砲改造) を開発しましたが 200Kg 近い自重を持て余して試作に終わっています。
ただし日本の大口径機載砲の多くは大戦末期に開発されており、材質・工作精度低下のため本来のカタログスペックより装薬量を減らし低初速化して使用せざるを得なかった事情もあったようです。
>速度はミサイルのように伸びないと思うのですが
空気抵抗によって減速します。ロケット式薬莢を使う 40mm ホ-301 も砲身内で燃焼を終えるため発射後は減速します。減速の度合いは真面目に計算すると複雑なのですが、おおむね速度の二乗に比例し断面密度に反比例します(要するに細長くて重い弾ほど減速しにくい)。
弾が目標に到達した時点での弾速を存速と呼びます。弾は軽いほど初速を上げやすいのですが、距離が離れると急激に存速が低くなり威力を落とすことになります。これは特に戦車砲・艦砲で顕著なのですが、航空火砲は射撃距離せいぜい 500m 以内なので減速の影響は受けにくく、動目標に対する命中精度という意味もあり初速が大きな評価ファクターを占めます。
ただし軽い弾は速度が高くとも運動エネルギーが小さいため貫通力が低く(徹甲弾の場合)、炸薬量も限られるため破壊力に劣る(榴弾の場合)欠点も兼ね備えます。重く高速な弾を撃つ火砲は理想の火器に思えますが、その反動を受けとめる為に重く・長くなり装備門数が限られ、機体の飛行性能を低下させます。
ささき
- >10
やっぱりホ-301はダメでしたか。丸メカに出てた弾体の切断イラストを見て、そんなこったろうとは思っていたのですが…
Schump