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シリンダーが回転するロータリー・エンジンのジャイロ作用を、機動に利用するような機体は存在していたのでしょうか。 猿六村 |
たとえば、オーバーウルゼル回転空冷二重星型14気筒(160hp)を積んだフォッカーE.IVのテストレポートには「急旋回をするにはエンジンをいったん切らねばならず、その結果高度と速度を大きく失うことになるので空戦においては危険」とあったりします。
Schump
軽量コンパクトな機体に大質量の回転エンジンをつけたソッピース・キャメルは特にジャイロ作用の影響が強く、右旋回と左旋回でまるで異なる飛行特性を示したそうです。腕利きはこれを利用して他機には真似のできない急旋回をやったという話もありますが、真偽の程は定かではありません。
なお、加藤貫一郎著「飛行のはなし」(技報堂出版)にジャイロモーメントと零戦の「左ひねり込み」の関係について考察が記されていますので、興味がありましたら御一読ください。
ささき
質問者
キャメルについては「エンジン回転の反力のせいで左には素早くロールできるのに右ロールは酷く遅かった」という話は知っていたのですが、摂動の積極的利用の話は寡聞にして知りませんでした。おそらくは、右ロール〜旋回の鈍さを補うために、スピンに入らない程度の素早い機首上げをして、摂動による右への変向を行ったのだと思います。見た目にはX-31の「ハープスト・ターン(急激な引き起こしから推力偏向で横に倒れるように機首の向きを変える)」のようになるのでは。
Schump
むしろ、F−104のような機体の方に明確に現れるのではないでしょうか。
オンブー
ついでに、プロペラ機に現れる不対称の力についてまとめておきます。
反トルク:エンジンがプロペラに及ぼす力(回転抵抗、加減速)の反作用。機体を左右(プロペラ回転方向と逆)に捻じる(ロール方向)の力を発生する。
後流:プロペラの発生する気流が垂直尾翼を叩くことにより、機首を振る(ヨー方向)力が発生する。パイロットから見てプロペラが時計回りなら機首は左に振れる。
Pファクター:プロペラ回転面が迎角を持つことにより左右での推力不均衡が発生する。パイロットから見てプロペラが時計回りなら、プラス迎角(機首上げ時)で機首は左に・マイナス迎角で右に振られる。
ジャイロ効果:エンジンおよびプロペラの回転軸に角速度を与えることにより、90度ずれた方向の力が発生する。パイロットから見てエンジン・プロペラが時計回りなら、機首上げ運動に応じて機首が右に振られる。
二重反転プロペラを持たない尾輪式単発機の場合、離陸滑走時には(エンジン/プロペラが時計回りの場合)
・トルクによって左に傾く力
・後流およびPファクター(プラス迎角)によって機首を左に振る力
・尾輪持ち上げの為操縦桿を押す→ジャイロモーメントによって機首を左に振る力
と、左向きの力ばかりがまとめて発生します。
ささき