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1016 戦後、かの堀越二郎技師に「マーリンエンジンを選択出来るのは機体設計者の夢。」とまで言わせた、P51やスピットファイヤーに搭載されていたこのエンジン(US製はパッカード)の優秀性はあまりにも有名ですが、機械構造的に何処が他の液例エンジンに比べて優れていたのでしょうか?
連合国側の航空燃料オクタン価が高かったのも有利だった一つと思いますが!!
又、それほど優秀なら枢軸国側でもコピー製作等考えなかったのでしょうか?
奇跡の発動機?誉

  1.  エンジンについては詳しい人が多いので詳細なレスは後から付くと思いますが…。マーリン(パッカード V-1650)の優秀さは「二段二速の機械式過給器を含めてた全体をコンパクトにまとめたこと」にあると思います。
     マーリンの当て馬としてよく引き合いに出されるアリソン V-1710 は一段過給器しか持っておらず、高度 3000m を超えたあたりから目に見えて性能が低下しました。アリソンでは二段過給器の開発が遅れ(実用化は戦後になった)、高々度性能の低下は排気タービンで補う計画だったようですが、P-38 を除くほとんどの機体はタービンの実用化に失敗し、結局高々度性能不足のまま実戦に投入され悪名を高めてしまいました。
     アリソンも悪いエンジンではないのですが、排気量が大きいだけにマーリンより一回り大きく(P-51A→P-51B を見てもわかるように、一段過給器しか持たない 1710-39 のエンジンマウントをわずかに延長しただけで二段過給器つき 1650-3 が収まっています)、それでいて実馬力は大差がありません(むしろ高度が上がるほどマーリン有利)。
     また、マーリンには整備・取り扱いが楽だとか、被弾しても燃えにくかった(液冷だから焼き付いてしまうが火災につながりにくい)とか、カタログ値には出ない実用上の利点も多くあったようです。戦後のエアレースやスピードボート・ホットロッド等のパワープラントにマーリンが多用された理由も(軍の放出品が安価に手に入ったという理由もさることながら)、整備が容易でチューンアップしやすい構造も関係しており、こういう利点は戦場において重宝されるものだったでしょう。

    >オクタン価
     ハイオクは入れればすぐ馬力が上がるというものではなく、ノッキングを起こしにくくなる=ブースト圧(過給圧)を上げることができる、ということです。
     直接の比較になるかどうかわかりませんが、疾風(誉) と P-51D(V-1650-7) の操縦マニュアルからエンジン過給圧の項目を抜き出して比較してみます。

    疾風 連続最大出力=250mm 緊急出力(一分)=400mm
    P-51 連続最大出力=61in.HG 緊急出力(五分)=67in.HG

     ブースト圧(ミリ) と Manifold Pressure(in.HG) の換算は自信がないのですが、250mm は 40in.HG に、400mm は 46in.HG に相当するようです。この計算が正しいとすると誉(一段二速過給器水メタ噴射付き)とマーリンの過給圧には大差があったことになり、この高過給圧を支えたのは良好な燃料事情にあった、と言えるかと思います。

    >コピー
     まず、高品質の鋼鉄をミクロン単位で加工するエンジンのクローンは容易なことではありません。機体なら1ミリ狂ったところで大したことありませんが、エンジンの重要部品は1ミリどころか0.1ミリ狂ってもまともに回らなくなります。スゥエーデンではツインワスプ R-1830 をコピーしていますが、これは借りた図面をちゃっかり映して置いたからできた事で、現物を採寸してコピーした訳ではありません。
     また、ドイツにおいてはダイムラーベンツ社(DB)とユンカース社(Jumo)が優秀な液冷エンジンを造っており、特に DB600 系の倒立V対抗・無段変速過給器(フルカン継手)・燃料噴射機構には絶大な自信があったようです。わざわざ手間とリスクを犯してマーリンをコピーする必要は感じなかったでしょう。
     日本においては、ちゃんと図面を買ってライセンス生産した DB601(ハ40・熱田)さえ不具合が続出しています。マーリンの原寸コピーなどやりたくても出来なかったでしょう。
    ささき

  2. 別にエンジンに詳しいわけではなく、単にマーリンが(も)好きな者です。
    まず、陳腐ですが、RRにはホークヤRR−R以来の液冷12気筒エンジンの伝統があったと思います。伝統にしがみついて倒産してしまう会社の例もありますが、技術の伝統というやつは実物の分解研究・分析、はたまた図面や仕様書では判らない何かを持っていて、コピーは困難なものです。生産技術などはその伝統の典型でしょうか?。
    マーリンに関しては、ボアアップ、排気タービン装着、二基連結といったドラスティックな飛躍の誘惑に負けず、きわめて地道に、後の日本のメーカーの実験計画法による改良や『QCサークル』による改善活動を思わせる努力で磨きあげていったことがあげられると思います。
    特筆はささきさんのおっしゃるように、良質の燃料を使いこなした機械式中間冷却器付過給器と思いますが、これも地道な改良の成果だと思います。
    そのRRが後にRB211では技術の飛躍を試みてうまくいかずにロッキードを追い詰めて田中角栄さんを失脚させる原因を作ったのは皮肉でしたね。

    マーリンのコピー。
    航空機生産の経験があった当時のフォードでは技術不足で自力生産不可能だったのをパッカードでは易々と成し遂げたと言われていますが自動車の世界でそのフォードが生き残ってパッカードが早々と消え去ってのも『技術』というものの面白さを感じます。
    SHI

  3. えーと、すでに回答がなされていますがエンジン現物からの採寸コピーは
    現代でも(同じ技術レベルの会社相互でも)非常に困難です。
    自分たちが開発しているものの参考にはなりますが、
    「同じモノ造れ!」と言うのは新規開発と大差ないか、却って手間です。
    採寸するだけでもウンザリ^^;まして各パーツの素材分析、処理過程推測……。

    さてマーリンの優れている点として、流体力学を踏まえた設計が
    挙げられます。
    吸排気系統、冷却液、オイルの流れの合理化などです。
    これらをきちんと踏まえて設計されたのはマーリンが最初であるようです。
    DB600系列はポルシェ博士が原設計を行い、モータースポーツ部門と兼任の
    ナリンガー博士などが改良に加わっていますが、彼らが同時期に製作していた
    レーシングエンジンは流体力学を特に重視していません。
    DB600系列も同様だったと私は推測しています。

    たかつかさ

  4. ささき氏、SHI氏、たかつかさ氏、私のQに対して真摯な回答ありがとうございました。  
    蛇足ながら、私も”議論ボード2”にコメント書かせてもらいました。
    今後ともよろしく願います。

    奇跡の発動機?誉

  5. >二基連結といったドラスティックな飛躍の誘惑に負けず
    え?それじゃヴァルチャーの立場は…(^_^;)
    ささき

  6. え?それじゃヴァルチャーの立場は…(^_^;)>
     そいつはペレグリンをくっつけたやつですぜ(笑)
     それとは別に、マーリンのシリンダブロックをH型に連結した「”H”マーリン」なるものが存在してますね。

    さてマーリンの優れている点として、流体力学を踏まえた設計が>
    挙げられます。>
    吸排気系統、冷却液、オイルの流れの合理化などです。>
     なるほど、そうだったんですか。「普通」の設計で小排気量のマーリンが、あそこまで性能アップできた理由が今まで理解できなかったですね。
     私が漠然と考えていたのは、給排気系の抜けがよく、圧縮比やブースト圧の増大にも耐えられ、クランクシャフト・コンロッド系のバランスが良いため高回転にも耐えられたのでは?ということでした。

     ただ、個人的にはV-1710も優れたエンジンだったと思います。排気量はマーリンより約1リットル大きいだけで(栄や瑞星とほぼ同じ)、あのスピットファイアよりおもいっきり空気抵抗のでかそうなP−40をスピットファイアMk.Iに匹敵する760〜775km/hの最大速度まで引っ張り上げてるんですから。P−51Aに至っては、スピットファイアMk.Vよりも優速ですしね。過給器開発の遅れでなんか評価低いですけれど。
     しっかし、「普通じゃない」のが当たり前のイギリスのエンジンの中で、1000馬力を越える「普通」の量産エンジンは「マーリン」と「グリフォン」しかないんですが、それが最も成功したという事実は「人間地道が一番!」を物語っているようで興味深いですね(笑)

    胃袋3分の1

  7. >6
    >私が漠然と考えていたのは、給排気系の抜けがよく、
    >圧縮比やブースト圧の増大にも耐えられ、
    そうなんです。
    吸気と排気の流れが合理化されると抜けが良くなるだけで無く、
    シリンダ内部のホットスポットを抑止できます。
    >クランクシャフト・コンロッド系のバランスが良いため高回転にも
    >耐えられたのでは?ということでした。
    これは60度バンクV12であれば意図的におかしな設計をしない限りは
    バランスは崩れません。
    ただし、私の書きこみで抜けていたことを追加すると
    クランクシャフトとケースの剛性が高いのでシャフトの捻り震動、
    ケースのアコーデオン震動が少なく、高回転と高ブーストに耐えやすくなります。
    もちろんプロペラの前後震動との共振も起きにくくなります。
    DBやJumoのような大きなエンジンでマーリン並みの剛性にすると、
    非常に重くなってしまいます。
    (液冷に限り)コンパクトな事は良いことなのです。

    ただ、同じに「排気量アップに勝るチューニング無し」とも言います。
    機体側がそれを許すならば気筒あたり出力を増すことより、気筒数を増すほうが
    健全です。
    機体側に軽量化を押し付けることになりますが……。



     
    たかつかさ

  8. これは60度バンクV12であれば>
     実は、これが結構怪しいです(笑)
     少なくともケストレルは他のロールスロイス製エンジンよりバンク角が広いようです。といっても、120度はおろか90度もなさそうなんですが(まあ、航空エンジンの場合120度にするのは考えづらいですけどね)。
     あ、そうそう、マーリンが高回転化できた理由のひとつに、排気量が小さいために1シリンダあたりの容積が小さいということはもちろんあげられますね。
    胃袋3分の1

  9. 二つだけ調べました。
    イスパノ−スイザ12Yはバンク角60度でした。
    しかし、DB601は90度でしたね(12気筒なのに・・・(^^;;;;;)
    胃袋3分の1

  10. ↑ごめんなさ〜い!ウソ書きました(^^;;;;;
    DB601は90度じゃありませんでした。測り方を間違えてました。
    もいっかい調べます。
    胃袋3分の1


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