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DB601等の燃料噴射式のエンジンは、燃料のオクタン価に応じて点火時期を調節するそうですが、これにはどんな意味があるのですか? フッフール |
点火タイミング調整は必要ですし、行われます。
今では自動化されていますが、昔のクルマの点火系統には
「オクタンセレクタ」がありました。
たかつかさ
これなんかも同じ発想のもんでしょうか?
わからんちん
一般論として,点火時期は上死点が理想的です。
ピストンエンジンの出力は,圧縮行程での負の仕事と,膨張行程の正の仕事の差し引きです。よって
・圧縮行程ではガスはなるべく低圧
・膨張行程ではガスはなるべく高圧
が望ましくなります。横軸にクランク角度,縦軸に圧力をとってグラフ化(インジケータ線図と言います)したとき,上死点前の面積を最小,上死点後の面積を最大としたい訳です。これには
1 上死点で点火
2 その瞬間に時間0で燃焼が完了して圧力最大まで上昇
3 その後ピストンが下がる
と最高の効率(出力)を得られます。
このときインジケータ線図では,上死点までは圧縮で圧力が上がり,上死点で垂直に圧力が上がり,上死点後はピストンが下がって圧力が下がっていきます。
つまり復動式内燃機関にとって『燃焼は上死点で時間0で完了』が熱力学的な理想です。
実際には燃焼には時間が掛かり,上死点で点火したのでは遅すぎて出力が下がります。そこで
1’ 上死点少し前で点火(この角度を「進角」と言います)
2’ 燃焼進行とともに圧力が上がりながら上死点を過ぎ
3’ 上死点直後で最大圧となる
ようなタイミングにします。点火が速すぎると圧縮行程での負の仕事が増えて出力低下,遅すぎれば上死点後の正の仕事が減って出力低下します。
これが上死点前で点火する理由で,当然回転数が高くなると点火進角も大きくとる必要があります。
ところが,上死点前で点火すると燃焼したガスが膨張する際に,燃焼室末端の未燃混合気が燃焼ガスとピストンの両方に押されて圧縮され,自己着火してそちらからも燃焼を開始することがあります(ノッキングもこれが原因です)。これが激しくなるとエンジンを壊します(表面断熱層が吹き飛ばされてピストンが溶けます)。
これを防ぐには燃料が発火しにくくすれば良く,そのため
1)着火しにくい燃料(酸素と反応しにくい燃料)=高オクタン燃料 を使う
2)点火時期を遅らせる(圧縮行程中の燃焼を減らす)
3)吸気温度を下げる(燃料分子と酸素分子が反応しにくくする)
4)混合気密度を下げる(燃料分子と酸素分子の衝突機会を減らす)
5)圧縮比を下げる(圧縮終りの温度・密度が下がり,3,4の効果が得られる)
などがあります。4は圧縮終りの温度を下げる効果もあります。
設問の「オクタン価が変わったとき」は1)が変わってしまうのでそれを他の方法で代償します。
2)による対策としては
低オクタン燃料 → 自己着火し易い → 点火時期遅らせる → (出力低下)
高 → し難い → 進める → (出力増加)
という調節が必要になります。
3)は「混合気中に水・メタノールなどを噴射して気化熱を奪う」,過給エンジンなら「アフタークーラー・インタークーラーを使う」などの方法があります。
4)は「スロットルを絞る」,過給エンジンなら「ブースト圧を下げる」ことでも可能です。
低オクタン燃料 → 自己着火し易い → ブースト圧下げる → (出力低下)
高 → し難い → 上げる → (出力増加)
逆に言うと,過給エンジンは高オクタン燃料ならブースト圧を上げて簡単に高出力化できます。(そもそも高オクタン燃料はそのために開発されました。水・メタ噴射も然り)
5)は調節できないので,低オクタン燃料を使うならそれに合わせておく必要があり,そのエンジンは高オクタン燃料の恩恵は受けられません。つまりレギュラー仕様のエンジンにハイオクガソリンを使っても無駄なだけでなく,未燃焼によりカーボン堆積などを生じて有害です。
isi
フッフール