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航空Ans.&Q. 1121 たーぼふぁんさんからの質疑が
長くなってきたので移動しました。
以下、これまでの内容です。
[九五式水上偵察機について]たーぼふぁんさんの質問
九五式水上偵察機は上の主翼に後退角がついていますよね。
また、この機は運動性が高いという解説をよく見ます。
上主翼の後退角について、私は「視界を良くするためだろう」くらいに思っていました。ところが最近〈世界の傑作機 No.47 日本海軍水上偵察機〉を読んだところ“その運動性を高めるのに貢献していたのが、著しい後退角をもつ上翼”と解説がありました。
後退角はむしろ安定性が向上しますよね。それは運動性を追及する事とは相反するように思えるのですが。
そこでいくつか質問があります。
1.文字化けしてしまった部分の書き直しです↓
(1) 九五式水上偵察機の後退角が、この機の高い運動性に貢献したのは本当でしょうか?
(2) (1)の回答がYesなら、どういう理論でそうなるのでしょうか?
(3) (1)の回答がYesなら、それは高い運動性を持たせる事を意図して後退翼に設計したのでしょうか?それとも別の目的で後退角をつけたら結果的に運動性が向上したのでしょうか?
(4) (1)の回答がNoなら、なんのために後退角をつけたのでしょうか?
たーぼふぁん
2.原型のヴォートO2Uからこの形態ですね。
この時期(1920年代後半)、米国ではちょっとした流行になったようです。
他にボーイングF3B・カーチスF8C・カーチスO-1・マーチンBM、があります。
現代でもアクロバット機のピッツがそうですね。
空力的な意味については下記の過去ログの回答2がヒントになるかと思います。
http://www.warbirds.jp/ansq/11/A2002565.html
超音速
3.>超音速さま
ご回答ありがとうございます!
ご提示いただきました過去ログを拝見いたしました。
私には難しいお話ですので、正しく理解できているのかは自信が無いのですが、
まず、上翼が前で下翼が後ろのスタッガーのついた一般的な状態。
その状態から、上翼の補助翼の効きが下翼でキャンセルされないように、翼端を後ろに引っ張ってきて後退角がついた。
運動性に貢献したというのは、この補助翼の効きの事を指している。
という理解で合っておりますでしょうか?
たーぼふぁん
4.(1)そうではないと思います。
九五式水上偵察機の運動性がよかった理由は、後退翼のためではないと思います。
安定性と運動性は相反するので、たーぼふぁんさんの疑問はごもっともです。
「後退翼は安定性が良い」と書いている本やウェブをよく見ますが、一般性は全くない。
・縦方向 ピッチング
・横方向 ヨーイング
・回転方向 ローリング
と、安定性は三つありますが、翼の形や速度や迎え角とかでいろいろ変わる。
一概には言えないと思います。
たとえば、ヨーイングに対して、後退翼の方が安定性が良い、というのは、
ジェット機のように薄く、揚抗比がちいさい翼で、高速での場合です。
大戦機の場合には全く当てはまらない。
あの時代は、後退翼は嫌がられていたので、九八式直協機はチャレンジしたけど大失敗だった。
九三中練とか、C-47とか、大戦中のヤク、ミグで、ゆるーい後退角がついているときもある。
場合によりけり、だと思います。
(4)それでは、どうして後退翼にしたのか?ということですが、機体の釣り合いをとるためだと思います。
対象が九五式水上偵察機で、水上機です。
飛行機設計で、揚力中心より重力中心を前にする、という定石がありますけど、これは飛んでいる場合です。
水上機は翼と胴体のほかに大きなフロートをかかえています。
水上機は、水に浮かばないといけないので、陸上機とはちがう。
水上で停止したときにひっくり返らないように、機体、翼、フロートで発生する三つのモーメントの足し算がゼロになるように工夫しなければならない。
三つはむずかしい。二つが三つになると、すごくむずかしい。
オモリを入れるくらいで済むならよいが、デッドウエイトなんかイヤだとか、なにか制約がある場合、後退翼にして釣り合いをとるわけです。
それから、複葉機で、翼を食い違い配置にしたときです。
運動性に対する、補助翼の効きの貢献云々ですが、かんけいないと思います。
補助翼で下向きになった空気が下側の主翼にぶつかって、補助翼の効き目がわるくなる、ということは無いです。
一般に、飛行機では下流の影響が上流におよぶ、というのはあまりない。
流体は空気で圧縮性が高く、外部流れ(境界条件が表面で定義される)だからです。
そうでない場合は、たとえば、
流体が水で、圧縮性が小さく、内部流れの場合、たとえば水道管の水、の場合、末端下流で蛇口を一斉に開いたら、上流給水所のポンプは急いで回転を上げるとか、対策する。
これは下流の影響が上流におよぶ場合です。
じゃま
5.じゃまさん。
>補助翼で下向きになった空気が下側の主翼にぶつかって、補助翼の効き目がわるくなる、ということは無いです。
>一般に、飛行機では下流の影響が上流におよぶ、というのはあまりない。
>流体は空気で圧縮性が高く、外部流れ(境界条件が表面で定義される)だからです。
そうはいっても、下翼にとってはそれは上流の流れとなりますよね。
上翼エルロンからの下向き流が下翼に当たり下翼の揚力が削られる。あるいは上下翼間の流れを上翼エルロンが阻害し下翼の揚力が削られる。この結果でエルロンの効きが悪くなったように感じる。
という見方は間違ってますか?
下翼にもエルロンを設けたり、上翼エルロン下に何も無い一葉半とするなど、他の形式の複葉機もエルロンの効き対策のように見えます。
超音速
6.超音速さん
飛行機はなるべくコンパクトにしたい。
上翼、下翼の間隔もなるべく小さいほうが力学的に有利だけれど、
上下の流れが干渉したらまずい。
だからプロペラ半径くらい間隔をとるのだと思います。
上翼の下流側は下翼の上流側ではないか、という超音速さんの考えはわかりました。
尾翼に主翼の後流が干渉する問題とか、ありますね。
じゃま
7.流れの後方の翼が、前方の翼まわりの流れを変えるか、について整理したいと思います。
第一に流れは超音速か亜音速化であり、亜音速ならば影響する、となる。
第二に影響の大きさはいかにであり、余りにも当然ですが両者の距離に依存するとなる。
スタッガーをもつ複葉機の場合、下翼の翼面積の1/2の平方根を代表長さとして、両翼の無次元距離が1であれば、工学的に意味のある変化があり、無次元距離が5であれば、工学的に意味のある変化はない、程度だったはずです。
なお、この場合の距離は、およそ機体の首尾軸における両翼の前縁間の距離です。
蛇足ですが、単葉機の場合でも翼自体の前方流を下向きに変える「吹き下げ」があります。ここに微小な翼をおけば、後方翼の影響を受けることになります。
如風
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