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> 日本:「日本の生命線」と内外に喧伝した満州の保全が日本帝国の命題ですが、満州保全のために中国へ武力侵攻する必然性はよくわかりません。
言うまでもないことですが、もともと日本が満州を「生命線」としたのは、ソ連/ロシアからの圧力に対抗する必要からです。その原点に立ち返ってみれば、ソ連/ロシアからの圧力に対処しうる有効な手立てがあるのであれば、日本が満州保全に固執する理由はなくなります。
であるならば、中国に安定政権が樹立し同盟(あるいはそれに準じた)関係を築けるならば、または米国の国力が対ソ防衛に加わるのであれば、日本は思い切って満州や朝鮮半島を放棄してしまっても構わないはずでした。
日本・中国・米国の三者がかなり高度なレベルで利害を一致させる可能性はゼロではなかったと言えます。
しかし、現実にはその可能性は限りなくゼロに近いものにならざるを得ませんでした。
その理由はダッチ・カイザー氏の指摘するような誤解であり、払拭しきれないほど根深い相互不信にあったと言えます。
中国はそもそも誰かから「信用」を得ることのできるような国内情勢ではありません。ただでさえ不安定なうえに、どの政権/軍閥も一枚岩ではなく、個人間の約束はできても国家間の約束ができるような環境だったとは言えません。
それに西洋文明に対して否定的な感情が強く、同じアジアの国ながら西洋文明になびいた日本に対してもあまり良い感情を持っているとは言えません。中国人にとっては日本も米国も中国にちょっかいを出してくるよそ者でしかない。
日本も米国もそのことはよく理解しています。というより、当時の列強諸国で中国を信用していた国なんかなかったと言って良いかもしれません。
米国は伝統的にアジアへの経済進出を意図していて、その究極目標は中国市場にあったことは今更指摘するまでもありません。彼らが欲しいのはあくまでも市場であって植民地ではありませんでした。
しかし、中国にとっても日本にとっても米国は欧州列強にとって代わろうとしている新興国にすぎず、米国の「野望」は容認しがたい(あるいは理解しがたい)ものでした。
産業革命後の欧州列強は「未開」の国にまず鉄道を「プレゼント」し、鉄道を防備するという名目で軍隊を置き、そこから経済的・軍事的に影響力を強めてその国を支配し、植民地を広げてきたことを日本も中国も知っています。米国の経済活動は欧州の「鉄道」と違わないか、安易に信用するわけにはいきません。
米国が当初の13州からどうやって今の領土を拡大するに至ったかもわかっていますし、事実無根の理由で米西戦争を引き起こした実績もあります。むしろ、信用する理由を探す方が難しいと言えます。
日本はソ連/ロシアから守るためと言いながら、その領土的野心は疑いようのないものでした(少なくとも第三者の目にはそうとしか見えない)。
日露戦争では米国はせっかく仲介の労をとったというのに、日本は満州の権益を独占しちっとも旨みをよこさない。
WW1では火事場泥棒的に青島島のドイツが植民地支配していた地域をかすめ取る。
ロシア革命に乗じてシベリアに出兵し、他国が撤兵した後も未練がましく居残り続ける。そして政府や天皇は「平和」や「戦線不拡大」を口にするのに、中国で何か事件が起こるたびに支配力を強化し、その支配地域を拡大し続ける。
それどころか、溥儀を担ぎ出して満州国建国などという暴挙にでる。
米国がせっかく中国市場への迂回輸出をしようと日本に自動車メーカーを進出させたのに、様々な理由で法規制や障壁を設けてその活動をどんどん締め付け、最終的に追い出してしまう。
おまけに国際連盟から脱退し、三国同盟なんか結んでしまう。
信用しろという方が無理でしょう。
三者三様に互いを信用できなかった理由にも背景にも、それぞれ少なからず「仕方がなかった」と言える部分はあります。
日本は勝ったとはいえ日露戦争は巨大な負債を残してしまいました。
ロシアの満州への再進出を防ぐにも、日露戦争の負債を清算するためにも、満州の権益はわずかであっても手放すわけにはいきません。手放せば負債を清算する目途が全く立たなくなってしまいます。
一度は跳ね除けたとはいえロシア/ソ連の力は強大であり、貧弱な日本の国力でソ連/ロシアに対抗し続けるには勝てるときに勝てるだけ勝っておく必要があります。
また、横(中国)からちょっかいを出されたのでは、いざ第二次日露戦争が勃発した時にどんな障害になるかわかりませんから、中国の、せめて満州地域の安定は欠かせません。中国のどの政権も軍閥も不安定で信用しきれない以上、満州地域を安定させるためには日本が自前の力でどうにかするしかありません。
地続きの大陸で「国境」が機能していない以上、外部の勢力がちょっかいを出して来れば専守防衛に努めたのではキリがなく、対抗上敵の活動拠点を攻撃するのが有効です。で、攻撃されるたびに敵の攻撃拠点となったであろう地域まで攻撃し、支配地域を拡大し・・・で泥沼一直線です。
これはある部分までは「仕方なかった」と言えると思いますが、すべてを「仕方なかった」というのは確かに無理があります。
日本が信用を失ったのも、仕方なかったとも自業自得とも言えるでしょう。
中国の混迷ぶりは、中国四千年の歴史上の傑物が勢ぞろいしても解決できるようなものだったとは思えません。
とにかく中国人民は外国というものを嫌悪していて、そうであるがゆえに「外国の傀儡ではない、中国人による近代国家・中国」を切望しています。
しかし、近代国家でない以上列強諸国に対抗できるはずはなく、列強諸国に対抗できるように近代化を果たすには外国勢力の力を借りるしかありません。でも、外国勢力の力を借りれば、それがどの国だろうと関係なく、その事実が統治の障害になってしまう。
この矛盾を解決しなければ中国で安定した統一政権など樹立できず、そしてその矛盾を円満に解決するような方法はなかったと言って良いでしょう。
この問題に有効だったアプローチは、開き直って大っぴらに外国勢力の力を借りて統治を断行する力技(国民党)か、徹底的に外国との関係を否定/秘匿し外国はあくまでも「敵」として利用する(中国共産党)か、「統一」を諦めて手っ取り早く部分的・地域的に安定政権をでっち上げる(日本)かの3つです。
史実から結果論だけを述べるならば2つめの方法が最も有効だったと言えるわけですが、日米中三国の協力関係を樹立して戦争を防ぐという観点から評価すると選択肢にすらなりえません。この方法では対ソ戦への備えが崩壊してしまう以上、日本が納得しませんし、そもそも対抗(利用)すべき「敵国」が存在しなければやはり中国を統一できないからです。
中国の感情を考えれば3つめもあり得ません。一時的にそういう状態になってしまうのは仕方ないにしても、外国勢力が絡んで意図的に行うのであれば中国人の目から見る限りそれは単なる国(中国)の切り売りでしかないからです。
で、一つ目の選択肢になるわけですが、外国が中国の「味方」として安定政権樹立に介入するには、中国と介入者の共通の敵が必要不可欠です。それが存在しなければ中国人民の外国嫌いを納得させられないからです。
日米中の三国が一致するために共通の敵になってくれそうな相手が必要になるわけですが、三者が断固たる決意で手を組むのであれば、外国では国力から言っても地理的条件から言ってもソ連ぐらいしかありません。ですが、ソ連にとって間接的な介入手段である中国共産党が存在する以上、わざわざ積極的に敵役を演じてくれるはずがありません。
では中国共産党を敵として…というと、これも成功は期待できません。
何故なら、仮に中国共産党が現代のアルカイダやタリバンみたいな危険な存在だったとしても中国人にとっては中国共産党は中国人であって、彼らを外国勢力とともに討伐するのは、中国人から見れば外国の手先として同胞を迫害しているに過ぎないからです。つまり中国共産党を共通の敵としたのでは、中国人にとっての外国に過ぎない日本や米国は「中国の味方」になれない。そして、日本や米国と手を組む政権/軍閥も同様に外国の走狗と見なされ、政治的支配力を失ってしまう。
結局、国民党が共産党に敗れて台湾に追い出されてしまったように、どういう経緯をたどるにしろ最終的に中国で存続することが絶望的になってしまいます。
日米中、どの国も中国の安定政権樹立を望んていた点は共通していると思います。そして、その利害は一致する可能性を持っていたと思います。
しかし、当時の状況から三者が相互の信頼を獲得し、協力関係を樹立するのは非常に困難だった(不可能に限りなく近かった)と言わざるを得ません。
中国が外国の力を借りて安定政権を樹立するには、別の敵国が必要であり、日米中の三国でその関係を割り振るとすれば、日米のどちらかが中国の敵にならざるを得ません。そして、日米のどちらかが中国の敵になるとしたら、すでに中国に少なからぬ支配地域を広げている日本が選ばれるのは必然です。
> (そういう意味で、「職業軍人は国家意思決定に従って行動する役人だから開戦の責任は無い」とは言い切れないところがあります)。
先のスレッドでの私の発言に絡んでくる内容なので、一応「弁解」しておきます。
私も日中戦争が日本陸軍(特に関東軍)の暴走によって生起したものであることは理解していますし、当事者である関東軍の将校らは戦争犯罪人として裁かれる以前に、大逆罪に問われても文句を言える立場ではないでしょう。
先のスレッドでの私の発言は真珠湾作戦の立案者である山本五十六の立場と対米開戦の責任の所在の関係を説明したものであって、日本帝国陸海軍の全将兵に全く責任がなかったと主張する意図があったわけではありません。
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