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万犬虚に吼えた?高高度戦闘機 じゃま 13/1/1(火) 16:27

Re:もし単発案が成功していたら? 超音速 13/1/5(土) 12:52
┗ P-39試作の経緯 ささき 13/1/6(日) 5:03
┣ Re:P-39試作の経緯 超音速 13/1/6(日) 8:49
┃┗ 都合の悪い現実に目をつぶる米陸軍航空隊 ささき 13/1/6(日) 9:36
┗ 1930年代の米戦闘機開発事情 BUN 13/1/6(日) 9:30

Re:もし単発案が成功していたら?
 超音速  - 13/1/5(土) 12:52 -
  
こんにちは
近年不活発だった議ボがひさびさの盛況で喜ばしいことです。

> P-37,P-38,P-39は1937年の高高度迎撃機発注仕様(単発案X-609と双発案X-608)に基づいて開発された機体ですが、ここで単発案と双発案が両方検討されたのは何故なのでしょうか。X-608の原文は読んだことがありませんが、WEB上の記述では「最高速度 360mph, 上昇力 20000ft/6 分」とあり、速度と上昇力に関する要求はX-608も609も同じようです。航続性能に関する記述はWEB上には見当たりませんでしたが、双発案が長距離侵攻戦闘機、単発案が近距離局地迎撃機という任務上の住み分けを前提に発注されたわけではないと思うのですが…。

世傑P-39によるとX-608の要求仕様は最高速度360mph/2万ft、290mph/海面、上昇力2万ftまで6分、航続力2万ftで巡航1時間、離着陸距離2200ft/安全高度15ft、の条件を満たす高高度迎撃戦闘機ということです。
私も原文は読んでいませんがX-609は中低高度用単発戦闘機とされています。
引用なし
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P-39試作の経緯
 ささき  - 13/1/6(日) 5:03 -
  
> 世傑P-39によるとX-608の要求仕様は最高速度360mph/2万ft、290mph/海面、上昇力2万ftまで6分、航続力2万ftで巡航1時間、離着陸距離2200ft/安全高度15ft、の条件を満たす高高度迎撃戦闘機ということです。
> 私も原文は読んでいませんがX-609は中低高度用単発戦闘機とされています。

Birch Mattews 著 "Cobra! Bell Aircraft Corporation 1934-1946" Schiffer Military History 刊によると、P-39 試作の経緯はおおむね次のようになります。

1936/5 米陸軍で新戦闘機の検討開始。最高速度325mph/20000ft, 275mph/Sea Level, 航続力 1 時間/20000ft, 上昇力 5 分 / 20000ft, 離着陸距離 1500ft。
1936/11 航続性能 2 時間, 上昇力 7 分に改定。
1936/11 航続性能 1 時間, 最高速度 360mph, 上昇力 6 分, 離着陸距離 1400ft に再び改定。
1937/2 検討結果をベースとして双発迎撃機要求仕様 X-608 の開示。
1937/3 一ヶ月遅れて単発迎撃機要求仕様 X-609 の開示。
1937/8 X-609 に応えてベル社は Model3, Model4 を提案。Model4(後の XP-39)推算性能は 330mph/Sea Level, 400mph/20000ft。
1939/4 XP-39 初飛行。最高速度は 375mph/20000ft にとどまる。
1939/5 XP-39 性能不振について NACA での解析が始まる。NACA では狭い胴体に詰め込まれた湾曲したダクト類の配管、とりわけインタークーラーの低効率を指摘、ターボ過給器の撤去を推奨する。これにより最高速度 429mph に達するとの推算。
1939/9 ターボを撤去した XP-39B の製作開始。
1939/11 XP-39B 初飛行。速度性能は XP-39 より悪化し 375mph/15000ft にとどまる。性能不振対策としてアリソン社に過給ギヤ比を 8.8 から 9.6 に上げた「高空型」エンジン(後の V-1710-35)開発が要請されると同時に、P-39 に対する要求仕様 C-616 の最高速度条件が高度 20000ft から 15000ft に緩和される。

このような経緯を見る限り、X-608 が最初から「中高度用」として発注されたとは私には考えにくいです。「X-608 は中高度用」という記述は、XP-39B の性能不振発覚後に現状是認のかたちで改められた「高度 15000ft」という条件が誤解されて伝わったものではないでしょうか。
引用なし
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Re:P-39試作の経緯
 超音速  - 13/1/6(日) 8:49 -
  
世傑P-39も持っているのでだいたいの流れは把握していましたが、詳細ありがとうございました。
NACA推奨によるターボ撤去は「軽量化のため」とされていましたが、ターボ搭載していても効率が低く配置に無理があったと判断されたのですね。
高高度迎撃機としてはP-38が大本命でP-39は単発での大火力が魅力だったので現状での高高度性能は不足ながらも採用された、と理解しております。
引用なし
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1930年代の米戦闘機開発事情
 BUN  - 13/1/6(日) 9:30 -
  
要求仕様だけを見ていても1930年代の米戦闘機開発はなかなか全体像がつかめません。技術的な側面から眺めるとどうにも辻褄が合わなくなるからです。


米陸軍航空隊が1935年〜1939年にかけて、最も期待を寄せた試作計画はXFM-1という万能双発戦闘機です。
まだ予算の苦しい時期にこのような双発機計画が採り上げられるのは双発万能戦闘機を装備すれば機種削減に繋がり、部隊の任務を多用途に設定できるからで、双発戦闘機は本来、財政事情の苦しい空軍にとっての救世主的存在だからです。

「万能双発戦闘機はエンジンの無駄ではなくむしろ経済的なメリットがあった」という点は双発戦闘機計画一般を考える時にとても重要です。

そしてこの時期、停滞している戦闘機開発を一挙に躍進させ得る高性能エンジンとしてターボ過給器装備のアリソンV-1710の完成見込が立ちます。その完成見込によって陸軍は次期戦闘機に高度6000mで時速500km/h以上という性能を求めるようになって来ます。ささきさんが紹介している「1936/5 米陸軍で新戦闘機の検討開始。最高速度325mph/20000ft, 275mph/Sea Level, 航続力 1 時間/20000ft, 上昇力 5 分 / 20000ft, 離着陸距離 1500ft。」とは新エンジンの完成見込によって生まれた仕様です。


けれども1937年度までの米陸軍航空隊は爆撃機重点主義、戦闘機無用論が主流でしたから、6000m以上の高高度で侵入できる爆撃機は戦闘機に妨害されない、という考えを持っています。

こうした考え方をベースにV-1710からのターボ過給器取り外しという動きが現れて来ます。P-39からターボ過給器が外され、理想主義的なP-37からP-40への移行といった「退化」が始まります。新機軸の導入リスクを避け、調達を早めるという技術メリットがあり、従来の米陸軍航空隊の発想にも適合していたからです。そして機体製造会社にとっても、欧州諸国の再軍備で急増した需要に早く応えられるという経営的メリット(特にベル社は経営面で窮状にあり手早く売れる商品が絶対に必要な状況にあります)が存在しましたから、P-38のような高性能機の試作が進む一方で、低高度戦闘機の計画はそのまま進んで行くことになります。

そこで見逃せないのが米陸軍航空隊は1938年に大きな変化を迎えていることです。

司令官にハップ アーノルドが選ばれ、陸軍参謀総長となったマーシャルがアーノルドを支持し、再選後の緊縮財政転換をルーズベルト大統領が軌道修正したからです。
人事面の刷新と財政状況の好転は当然、陸軍戦闘機の開発に変化をもたらします。

それまで民間の速度記録機に大きく水をあけられ、大陸横断飛行でもヒューズH-1に先行されていた状況を打破して、先進的高性能機を陸軍でも積極的に開発するような流れが1938年度から顕著になり、陸軍の要求仕様以上の要素を盛り込んだP-38は他の試作機よりも高価で複雑でリスクを伴う計画でしたが、H-1に対抗する大陸横断高速飛行を成し遂げたことで陸軍航空隊の面目をほどこして、アーノルドの絶対的な支持を獲得します。P-38はこうした点で盤石の基盤を獲得していたと言えます。

人と金の事情が変わったので物がついて来たということです。
引用なし
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都合の悪い現実に目をつぶる米陸軍航空隊
 ささき  - 13/1/6(日) 9:36 -
  
> 世傑P-39も持っているのでだいたいの流れは把握していましたが、詳細ありがとうございました。
> NACA推奨によるターボ撤去は「軽量化のため」とされていましたが、ターボ搭載していても効率が低く配置に無理があったと判断されたのですね。
> 高高度迎撃機としてはP-38が大本命でP-39は単発での大火力が魅力だったので現状での高高度性能は不足ながらも採用された、と理解しております。

前述の著書でも「なぜターボが外されたのか」「なぜ性能劣化したXP-39Bが採用されたのか」についてさまざまな資料・証言から解明を試みていますが、別のスレッドでBUNさんが挙げられていた「急拡大する航空隊の規模に生産能力がついてゆかない」「一社でも多く、一機種でも多く新鋭機の量産を開始しなければならない」というプレッシャーがあったようです。
それゆえに、私はXP-39が400mphを達成していたらエンジン2基というリソースを食うP-38は不採用になったのではないかと勘ぐったのですが、現実にはエンジンだけが隘路なのではなく機体生産施設も機銃照準器といった装備品もことごとく生産拡大の真っ最中で、「双発より単発のほうが生産機数が稼げるからP-38は不採用にしよう」というような状況ではなかったようです。
急拡大する米陸軍航空隊の需要を満たすため、P-38は双発ゆえの高価さという欠点に、P-39はターボを外して劣化した高空高速性能という欠点に目をつぶるかたちで量産が急がれたような印象を受けます。
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